研究課題/領域番号 |
23K05338
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
市浦 英明 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 教授 (30448394)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 生分解 / 湿潤紙力強度 / 農業用マルチシート / リン酸 / 尿素 |
研究実績の概要 |
本年度は、紙にリン酸と尿素からなる試薬(リン酸エステル化試薬)による処理を行い、湿潤紙力強度の向上と生分解性の関係性を検討した。そして、ほぐれやすさ試験および湿潤紙力強度を測定した。本年度はセルラーゼを用いた分解性試験による評価を行った。 リン酸/尿素=2.5/7.5(M)の場合、処理温度130℃、処理温度140℃で処理時間45分以上、処理温度150℃、処理時間30分以上で、湿潤紙力強度が発現した。湿潤紙力強度は、140℃、45分以上の場合、ブランクの2.3 Nに対し、17 N以上となり、約7倍近く向上した。処理時間1.5時間の場合、約28Nとなった。これにより、処理温度が高くなるほど短時間の処理で湿潤紙力強度が発現する傾向が観察された。それ以外の条件では、湿潤紙力強度が発現しなかった。 セルラーゼを用いて調製したシートの分解試験において、分解しやすい条件は、リン酸/尿素=2.5/7.5(M)、処理温度130℃で処理時間45分以下、処理温度140℃で処理時間30分以下、処理温度150℃で処理時間15分の試料であった。これらの試料は分解開始から1日後の時点で残存率が50%を下回っていた。分解開始から1日後では、リン酸/尿素=2.5/7.5(M)、処理温度130℃、処理時間60-90分、処理温度140℃、処理時間45-90分、処理温度150℃、処理時間30-90分の条件では、残存率が77.3-99.7%と分解が進まなかった。これにより、処理温度が高くなるほど、処理時間が長くなるほどシートの分解が進みにくくなる傾向が観察された。これより、調製条件により、生分解性のコントロールが可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、リン酸と尿素を任意の割合で混合した試薬で紙に処理を行い、湿潤紙力向上と生分解制御機能の付与を検討した。 今年度リン酸エステル化試薬濃による処理条件と酵素糖化による分解性の関係を明らかにした。セルラーゼによる分解開始から7日後の残存率が60%を下回る試料はいずれも湿潤紙力強度を発現していなかった。この結果は、ほぐれやすさの結果と一致する傾向であり、つまりほぐれにくいものは、分解が進みにくい傾向であった。これより、セルラーゼは試料のほぐれた部分から侵入し、セルロースの分解を行っており、試料が元の形状を保っていると分解が進みにくくなることを明らかとした。一方、リン酸濃度の割合が高い条件では、ほぐれやすいにもかかわらず、分解が進みにくいという結果であった。これは、リン酸によりpHが低くなり、そのリン酸がセルロースの分解を阻害した結果、進みにくくなったと考えられる。 これらの結果、リン酸と尿素の混合溶液で処理した紙は、湿潤紙力強度が発現するだけでなく、生分解性速度のコントロールも可能であることを明らかにすることができた。このことから、概ね今年度の目標を達成したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は調製した紙を用いて、土壌による生分解性試験を行う。生分解性評価については、JIS K 6955 に準じて、規定の土壌と調製した紙を用いて、土壌微生物による分解性を評価する。そして、リン酸エステル化による処理条件と生分解性速度の関係性を明らかにする。また、分解後の紙中に含まれるセルロースの重合度を調べることにより、分解メカニズムを明らかにする。 また、パルプの叩解度 (未叩解, CSF=500 mL, 250 mLなど)、紙の坪量(60 g/m2, 120 g/m2, 240 g/m2 など) および繊維の種類(針葉樹、広葉樹)などの抄紙条件と生分解性速度の関係性について検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
薬品類の使用量が予想よりも少ない量で実験を進行できた結果、残額が生じた。 来年度は、土壌による生分解性試験を予定している。この場合、再現性に関する実験も同時に検討し、サンプル数を多く作成する計画である。このことから、薬品使用量が今年度よりも増加すると予想される。この増加した薬品使用量分の予算をこの残額から使用する予定である。
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