研究課題
日本に生息するウナギ属魚類の気候変動への応答を理解するため、日本列島の分布北限に生息するニホンウナギとオオウナギのそれぞれの個体群の生態的特性と生息環境を調べて、それらを分布中心部の個体群の知見と比較することで、分布限界域に生息する地域個体群が晒される環境に対する生態的な適応能力を明らかにすることを目的とした。東アジアの台湾から日本にかけて主要分布域をもつニホンウナギについては、分布北限域の北海道南部の河川および湖沼で調査を実施したところ、様々な体サイズの個体が採集され、年齢解析によって幅広い年級群の個体が生息していることがわかった。さらに、雌雄の大型個体について生殖腺の組織観察を行ったところ、雌雄ともに成熟開始の段階まで発達していた。これらのことから、北海道南部の河口域には恒常的にニホンウナギの稚魚が接岸し、低水温環境に晒される分布北限域の河川や湖沼を成育場として利用し、産卵場の海に向けて降河する準備段階まで生残・成長していることが明らかとなった。インドネシアやフィリピンなどの東南アジアの熱帯域に主要分布域をもつオオウナギについては、分布北限域の大隅諸島の屋久島と種子島の河川で調査を実施したところ、オオウナギはニホンウナギとは流速や河床材料等の環境条件の異なる場所に優占して生息していることが明らかとなった。したがって、オオウナギの分布北限域に位置する屋久島や種子島において、ニホンウナギとオオウナギは同じ河川内の異なる環境で棲み分けして共存しているものと推察された。
2: おおむね順調に進展している
ウナギ属魚類2種のそれぞれの分布北限域において野外調査が順調に進み、生物学的な知見を収集できた。とくにニホンウナギの分布北限域である北海道では個体密度が低いために生息状況に関する調査に多くの時間と労力を要するものと想定していたが、当初の予測より多くの個体が生息していることが確認された。次年度以降は、その要因も含めて研究を進めていく予定である。
行動実験や数値シミュレーション実験などの研究アプローチによって、日本列島の分布北限に生息するウナギ属魚類について行動生態学的観点から研究を推進する。
分布北限域における調査が順調に進み、研究協力者による協力体制も十分であったため、調査関連の経費が軽減された。次年度は数値シミュレーション技術に精通した研究分担者に加わってもらい、これまでの調査結果を踏まえて行動実験や数値シミュレーション実験に重点を当てて発展的に研究を進めていく計画である。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件)
Aquatic Conservation: Marine and Freshwater Ecosystems
巻: 33 ページ: 1295-1308
10.1002/aqc.4013