研究課題/領域番号 |
23K05377
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
田中 憲司 福山大学, 生命工学部, 教授 (00309634)
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研究分担者 |
山岸 幸正 福山大学, 生命工学部, 教授 (10368780)
高木 基裕 愛媛大学, 南予水産研究センター, 教授 (70335892)
一見 和彦 香川大学, 農学部, 教授 (70363182)
金子 健司 福山大学, 生命工学部, 教授 (90601906)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 瀬戸内海 / 藻場 / 流れ藻 / 葉上動物群集 / 魚介類の集団遺伝解析 / 海藻・海草 / 海藻の集団遺伝解析 / 流れ藻移動経路 |
研究実績の概要 |
①藻場と流れ藻の生物相の比較:広島県因島付近において、藻場の着生海藻と沖に浮遊する流れ藻を採取し、それらの葉上動物群集を比較した結果、着生海藻と流れ藻の葉上動物相に明確な違いが認められた。さらに、主要な葉上動物についてサイズや抱卵個体の有無を調べた結果、藻場の着生海藻には抱卵個体が、流れ藻には小型個体がそれぞれ多かったことから、藻場で生まれた幼若個体が流れ藻に付随することで生息場の拡大を図っていることが示唆された。 ②流れ藻随伴生物の集団遺伝解析:2023年5~7月に瀬戸内海東部海域(香川県)で流れ藻を採集し、随伴していたアミメハギやワレカラ類等の魚介類を得た。また、瀬戸内海中央部の沿岸・島嶼の藻場において上記の魚介類等を採集した。これらのDNA分析により、海域間の集団構造を確かめた。また、流れ藻随伴個体と近隣の藻場集団との間に共通ハプロタイプが検出され、それらの関連が示唆された。 ③流れ藻構成藻類の藻場間交流の解析:2023年5~7月に香川県で採集した流れ藻は、ホンダワラ類9種、その他海藻20種、海草類3種、合計32種が確認され、季節により主要構成種が異なっていた。さらに、各地の海藻集団の遺伝的違いを解析するために、MIG-seq法の有効性を確かめた。芸予諸島因島~大三島の9地点からアカモク32サンプルを用いてMIG-seq解析を行い、STRUCTUREによる個体群解析を行った結果、これまでのハプロタイプ解析では不明瞭であった異なる遺伝的集団が明らかとなった。本解析は近距離でも高い精度で集団間の違いを検出できる方法であることが示唆された。 ④流れ藻の移動経路の推定:藻場から発生する流れ藻の移動経路をシミュレーションした結果、藻場の葉上動物群集の類似性を、予測された移動経路から説明することができた。このことから流れ藻が藻場の葉上動物相に影響を与えている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
つぎの4つの小課題において、各課題の進捗を記述する。 ① 藻場と流れ藻の生物相の比較:藻場の生物相の類似性を明らかにするため、瀬戸内海の主要な藻場で付着生物を採集して藻場間における構成種の類似度を確かめるとともに、付近の流れ藻と藻場の構成種の比較を行っている。これまでの調査結果から、藻場で生まれた幼若個体が流れ藻に付随することで生息場の拡大を図っていることが明らかとなってきた。 ② 流れ藻随伴生物の集団遺伝解析:瀬戸内海の主要な藻場と流れ藻において、魚類および流れ藻付着生物を採集し、それらのDNA 分析データを比較分析することで、流れ藻随伴生物の分布と集団遺伝構造の形成に寄与する流れ藻の役割を検討している。これまでの解析結果から、海域間の集団構造を明らかにするとともに、流れ藻随伴個体と近隣の藻場集団とのハプロタイプ分析から、それらの関連性が確認されている。 ③ 流れ藻構成藻類の藻場間交流の解析:瀬戸内海の主要な藻場において、流れ藻を形成するアカモクなどの海藻種のDNA分析を行い、これらの集団遺伝構造の解析を進めている。核DNA分析(MIG-seq法)を行った結果、これまでのミトコンドリアDNAのハプロタイプ解析では不明瞭であった異なる遺伝的集団が明らかとなり、近距離でも高い精度で集団間の違いを検出できた。 ④ 流れ藻の移動経路の推定:瀬戸内海の比較的規模の大きい主要なガラモ場とアマモ場において、GPSを付けた流れ藻を投入し、その後のGPSの位置情報を連続的に記録することで移動経路を追跡した。そのシミュレーション結果から、藻場の葉上動物群集の類似性を、予測された移動経路から説明することができた。
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今後の研究の推進方策 |
瀬戸内海の広い範囲で着生海藻および流れ藻を採取し、それらの葉上動物群集の類似性を把握することにより、瀬戸内海における流れ藻を介した藻場間の生物の移動について検討する。 また、昨年度に引き続き2年度および最終年度に掛けて、瀬戸内海東部・中央部および西部海域における流れ藻随伴個体および沿岸・島嶼部の藻場において、アミメハギやワレカラ類等の魚介類を採集する。採集された個体のDNA解析(ミトコンドリアDNAによる母系解析およびMIG-seq法による核DNA解析)を行い、これら魚介類の集団遺伝構造を明らかにする。これらの解析結果をもとに、流れ藻随伴個体と沿岸・島嶼部の藻場に生息する集団のDNA型を比較することで、これら魚介類の分布拡大に寄与する流れ藻の役割を検討する。 さらに、藻場および流れ藻を構成する海藻種のcox遺伝子およびMIG-seq解析等による系統解析を行い、地点間の遺伝的類似性の推定から、藻場間の海藻の移動について検討する。 これらの調査・解析結果を総括することで、瀬戸内海における藻場生態系の多様性の維持や集団遺伝構造に寄与する流れ藻の役割を解き明かし、当海域における藻場生態系の適切な保全対策を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、調査旅費として100,000円を計上していたが、科研費の使用可能時期が8月以降であったため、初年度の使用額が19,394円であり、その差額が80,606円となった。また、次年度使用額の118,212円から調査旅費の残額80,606円を引いた37,606円は、物品購入費の残額である。次年度使用額については、調査旅費および物品購入費に充てることとし、計画的な使用を心掛ける。
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