研究課題/領域番号 |
23K05442
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
内川 義行 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (20324238)
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研究分担者 |
堀田 恭子 立正大学, 文学部, 教授 (20325674)
渡邉 修 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (30360449)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 棚田 / 棚田地域振興法 / 地域振興活動計画 / 生産基盤整備 / GIS |
研究実績の概要 |
内川は、全国の認定済「棚田地域振興活動計画書」の内容について、①現状及び課題把握から明確な目標設定がされているか、②計画実現の方法や具体的事業の記述があるか、③主体となる協議会の構成はどのような特性があるか、といった点から抽出把握を開始した。特に認定数が上位の長野県の14地区の計画書については優先して詳細の整理を実施した。その結果、計画策定主体の協議会により、複数指定地域をまとめて計画するものと単独地域を対象とするものとがあり、複数地域・団地を対象とする場合、個々の状況にどこまで適切に対応しうるかといった懸念があると示唆された。加えて、活動目標の設定時に地域課題の把握がどのように行われたのかが不明瞭・不十分と考えられる計画が散見されたことから、計画策定方法に関する実態調査の必要性が明確となった。 また、長野県「姨捨地区(千曲市)」「稲倉地区(上田市)」の2地区では、現地調査から計画実施状況の確認を行った。その結果、姨捨地区は全国有数の顕彰を複数受け、6つの保全団体を擁するが、農林と文化財の部局縦割りから必ずしも十分には連動していない状況が示唆され、各種の顕彰を活かす実施主体の仕組みに改善が必要な点を明らかにした。稲倉地区は地元保全組織が十分に機能し、各種の取組み活発に実施されていた。一方、イベントや都市住民向けの保全活動は、組織活動の収益としては全体の2割程度であることが明らかとなり、活動経費は補助金等の公的資金に大きく依存していた。さらに棚田区画と道路との沿接状況調査から、非沿接区画での耕作放棄率が有為に大きいことが明らかになった。このことから、必ずしも地元での課題認識は高くないものの、道路接続などの耕作条件改善の必要性が強く示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全国の認定済「棚田地域振興活動計画書」の内容把握作業については、やや進捗が遅れているが、長野県をモデルに抽出方法については目途がたった状況にある。 具体的には、①現状及び課題把握から明確な目標設定がされているか、②計画実現の方法や具体的事業の記述があるか、③主体となる協議会の構成はどのような特性があるか、といった点を抽出し、概況を把握するための詳細な確認項目を検討した。 また、計画書作成等に対する、各棚田協議会から棚田コンシェルジュへの問い合わせの状況についても全国の農政局から情報収集ができ、現在は内容の分析を開始できている。 現地調査は長野県を手始めに実施を開始し、予定よりやや先行している。調査地は、千曲市・姨捨地区と、上田市・稲倉地区である。千曲市・姨捨棚田地区では、市役所の担当および、地元の棚田保全団体(6団体)のうち、3団体へのヒアリング調査が終了している。また、現地の耕作条件に関する踏査も実施し、これらの結果は棚田学会での口頭報告を実施し、現在は学会誌への論文投稿中である。また、上田市・稲倉地区でも、保全組織へのヒアリングおよび資料収集、加えて現地調査を実施できており、この結果についても同様に、棚田学会にて口頭発表を行った。論文については査読が終了し、農業農村工学会2024年6月号に報文として掲載が決まっている。内容については先述したとおり、棚田振興ではどちらかというと優先されがちなイベント実施やオーナ制度などのソフト施策は、広報・宣伝効果はあるものの必ずしも直接的収益にはなっていない実態を明らかにした。一方で、地味ではあるが区画と道路の接続など耕作条件の改善こそが実は、耕作者や保全活動の高齢化・減少による労働力減少に対して有力な対策になり得ることを示せた。
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今後の研究の推進方策 |
全国の認定済「棚田地域振興活動計画書」の内容把握作業は前年度に続けて継続する予定である。併せて、棚田協議会から棚田コンシェルジュへ出された問い合わせ内容に関する分析も同様に継続する。現地調査については、これらの分析結果を踏まえて項目を検討したうえで、複数県の棚田について計画書策定における課題に関するヒアリング調査を実施する予定である。 なお、長野県上田市・稲倉地区については継続的な耕作条件の検討調査を計画している。さらに、新潟県において積極的に棚田の整備手法として、平行畦畔型等高線工法の導入を推進してきた過去の経緯から、それらの実態を把握すると共に、現地での評価について把握する。加えて、長崎県平戸市・獅子地区において、実施を検討している農地整備を対象に、これまで十分に浸透していない平行畦畔型等高線工法の計画手法について、近年急速に進んでいるGISを用いた方法の可能性を検討する予定である。先述の通り耕作条件改善の一助として重要な方策と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の堀田は、研究当初は明確に確定していなかった所属大学のサバティカル制度が、研究開始後に決定した。その結果、2023年度の9月から約3ヶ月在外地に滞在した。その間、利用しなかった研究費用について次年度に繰越し、活用することとした。
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