研究課題/領域番号 |
23K05447
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田畑 俊範 九州大学, 農学研究院, 助教 (80764985)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 世界灌漑施設遺産 / 洪水解析 / 平水解析 / 斜め堰 / 治水・利水機能 / 山田堰 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,歴史的農業土木遺産である山田堰を対象に数値水理解析を行うことで,国内ではほとんど姿を消してしまった「斜め堰」の学術的価値の再認識を図るとともに,その新たな設計指針を示すことである.本年度では,山田堰を対象に平常時および洪水時それぞれを解析可能な2次元平面浅水流モデルを開発した.また,構築したモデルを用いて山田堰が持つ利水・治水機能の検証を行った. まず解析対象領域において2020年に実施された航空レーザ測量による3次元点群データを取得した.同データを線形補完により,平水時計算用として1 m,洪水時計算用として10 mメッシュの標高データをそれぞれ作成した.解析には,平面2次元浅水流モデルを用いた.なお,平水時計算では堰周辺で常・斜流混合流れが発生することから,移流項の解析には高精度の差分法であるCIP法を採用した.洪水時計算の移流項の計算は風上差分法を採用した.構築したモデルの再現性確認のため,平水時の堰周辺の流速分布をプロペラ型流速計により複数地点で計測した.また,洪水時は現地観測が困難であるため堰周辺にある水位観測所の時系列データ(2020年7月,2023年7月)を国土交通省筑後川河川事務所より提供頂いた.平水時・洪水時それぞれに構築したモデルは,流速分布および水位変化を高精度に再現することができた.そこで,構築したモデルを用いて利水・治水機能の検証を行った.まず山田堰の治水機能の検証のため,斜め堰の代わりに直角堰を設置した場合の水位変化を現況と比較したところ,山田堰には洪水時の水位低減効果があることが確認された.そして,利水機能について考察したところ,斜め堰の設置位置が重要であることが示唆された.すなわち,河川湾曲部の下流側に設置することで外縁部に流れが集中し,高い取水効率が実現できていることが考察された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,斜め堰の学術的価値の再確認を図ることを大きな目的としている.それに対し,本年度では山田堰の平水解析および洪水解析それぞれに適した2次元浅水流モデルを開発することで,同堰が持つ治水・利水機能について解明することができた.また,実績の概要には挙げていないが,筑後川流域を対象とした分布型降雨流出モデルについても既に構築が完了している.これらを組み合わせることで様々な条件下における山田堰周辺の流動解析が可能である.さらに,これらの成果として論文も投稿している.以上の成果より,おおむね順調に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度で構築した山田堰周辺の水理解析モデルと筑後川流域の水文モデルを組み合わせることで,様々な条件下における山田堰周辺の土砂水理解析を行い,治水・利水機能について更なる知見を得ることを目指す.また,一方で現在斜め堰が設置されなくなった要因である堰下流部で発生する局所洗堀の把握に向けた研究も進める.回流型直線水路を用いて,PIV(Particle Image Velocimetry)法による流速・流向の計測を行う.計測結果から,斜め堰の設置角度による流動特性の変化を明らかにする.その後,実験結果を基に粒子法による水理解析モデルの構築を試みる.粒子法を活用することで,堰下流部の流動特性の再現や洗堀特性の解明が可能となる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度では,現地調査用パソコンを購入予定であったが現地観測をプロペラ型流速計で行ったため不要であった.そこで,繰り越される16万円は,翌年度の渡航費として使用する予定である.
|