研究課題/領域番号 |
23K05490
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
花田 秀樹 広島大学, 両生類研究センター, 助教 (50228508)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ジクロルボス / 急性毒性 / ミトコンドリア膨潤 / カルシウムイオン / 甲状腺ホルモン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、両生類に対する殺虫剤ジクロルボスの影響を調べることにある。ジクロルボスの毒性を確かめるため、アフリカツメガエルオタマジャクシを材料にして、1から10 ppm ジクロルボスを暴露した。その結果、生存率100パーセントだった対照群(無処理対照群および溶媒対照群)に比較して、1から10 ppmジクロルボスに暴露したオタマジャクシのほとんどが48時間以内に死に、急性毒性が認められた。次に、アポトーシス(細胞死)を引き起こす鍵となる過程であるミトコンドリア膨潤について調べた。ミトコンドリア膨潤は、わずかながら、自発的にも起こる。そのため、本研究ではATPをミトコンドリア懸濁液に加え、安定させた状態で実験を行った。ミトコンドリアに対する毒性、特にジクロルボスがミトコンドリアを膨潤させる毒性を持つか否かを確かめる必要があるため、ミトコンドリア膨潤を引き起こす物質、高濃度カルシウムイオンおよびアンカップラー甲状腺ホルモンとともにミトコンドリアに作用させ、反応をみた。その結果、アフリカツメガエル成体の肝臓から単離したミトコンドリア対して、ジクロルボスは自発的に起こるミトコンドリア膨潤を促進せず、それを抑制することがわかった。高濃度カルシウムイオンによって膨潤したミトコンドリアに対して、ジクロルボスは膨潤したミトコンドリアを抑制しなかった。さらに、甲状腺ホルモン誘導によるミトコンドリア膨潤に対して、ジクロルボスはこの膨潤を抑制することがわかった。以上のことから、アフリカツメガエルオタマジャクシに対してジクロルボスは急性毒性を持つこと、ミトコンドリア膨潤機構の撹乱に関わる可能性を持つ作用があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジクロルボス(DDVP)の急性毒性およびミトコンドリア毒性を先行させ、調べている。急性毒性を調べた理由は、個体レベルでDDVPに耐えうる(生き残る)濃度を調べるため、その毒性の強さを測る必要があった。両生類に対するDDVPの毒性に耐えうる個体の有無をチェックし、以後の研究を進めるためである。また、ミトコンドリアに対する毒性、特にDDVPがミトコンドリアを膨潤させる毒性を持つか否かを確かめる必要がある理由については、下記の通りである。まず、ミトコンドリア膨潤を引き起こす物質には高濃度カルシウムイオンおよび甲状腺ホルモンなどのアンカップラーが知られているが、それらによって引き起こされる膨潤とともに誘導される、チトクロムc漏出はDNAを切断するエンドヌクレアーゼを活性化させるカスパーぜ9および3を順に活性化させ、細胞死を引き起こす。また、同様の過程で細胞遺伝毒性を引き起こす可能性を含め、ミトコンドリア膨潤を調べることは、最優先されるべき研究だった。DDVPによるミトコンドリア膨潤に関しては「研究実績の概要」に記した通りであるが、DDVPは直接ミトコンドリアに作用し、細胞死を引き起こすというよりも、間接的にいくつかの過程を経てミトコンドリアに作用する可能性を持つことがわかった。今後の研究展開に大きな意味を持つ。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」に示す通り、当初の予想を違えた結果を得た。そこで、今後は、さらにミトコンドリアに対するDDVPの毒性の特性をさらに調べ、オタマジャクシ、カエル肝臓および精巣等を用いて細胞死および遺伝毒性を調べていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度使用したの差額59,275は、購入予定の物品(イルミネーター)購入費が足りなかったため次年度に繰り越してしまった。次年度の科研費と合わせてイルミネーターを購入し、研究を進めていきたい。
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