近年、ウシにおいて経腟採卵(OPU)法により採取した卵母細胞を体外受精(IVF)して得られた胚を用いた子牛生産の需要が世界的に拡大している。しかしながら、IVF胚の受胎率は新鮮胚の移植であっても体内受精胚と比較すると低く、凍結胚ではさらに低下する。この原因としてIVF胚は培養や凍結過程で受けるストレスに対する耐性が低いことが挙げられる。 そこで、本研究では、ウシIVF胚においてストレス耐性を誘導する機構について詳細を明らかにするともに、得られた知見を利用した高いストレス耐性を有するIVF胚の生産系を確立することで、最終的にOPU‐IVF胚の受胎率向上を目指す。 本年度は、主にストレス耐性を誘導する条件について検討を行った。体外成熟培養中に誘導処理を行うことによって、熱ストレス条件下での成熟率およひ移植胚の生産効率が向上することが明らかとなった。同様に、体外発生培養中の誘導処理によっても熱ストレス条件下での胚発生率および胚盤胞期胚の品質が向上することが明らかとなった。また、IVF胚の生産過程すべてにおいて、誘導剤を添加した場合、熱ストレス処理の有無にかかわらず、発生率が向上することが明らかとなった。さらに、ストレス耐性誘導処理中の活性酸素種および還元型グルタチオンの動態の観察を行い、誘導処理によって時的な活性酸素種の増加が観察され、これまで報告されているストレス耐性の向上を誘導する機構との類似点が示された。これらの結果から、ストレス耐性を向上させることで発生能の高いウシIVF胚を得るための培養系が確立できた。今後、これらの結果を基に、分子生物学的手法を用いたより詳細な解析を進めていく予定である。
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