研究課題/領域番号 |
23K05565
|
研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
小西 美佐子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門, 上級研究員 (20355168)
|
研究分担者 |
室田 勝功 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究部門, 主任研究員 (10791973)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
キーワード | 新興オルビウイルス / アルボウイルス感染症 / 診断法 |
研究実績の概要 |
1) 新興オルビウイルスの診断法確立と疫学調査 ウイルス遺伝子検査法として、Yunnan orbivirus (YUOV)、Guangxi orbivirus (GXOV)およびYonaguni Orbivirus(YONOV)のVP6(ヘリカーゼ)遺伝子を標的としたリアルタイムおよびコンベンショナルRT-PCR法を確立させた。各ウイルスは、リアルタイムRT-PCR法では解離曲線におけるTm値により、コンベンショナルRT-PCRでは増幅産物のサイズによって識別可能である。 蚊由来の株化細胞であるC6/36細胞(C6/36)を用いて各ウイルスの持続感染細胞を作出した。RT-PCRおよびC6/36に対する感染実験の結果、各持続感染細胞は培養上清中に感染能のあるウイルスを放出していることが判明した。 2) 哺乳類細胞を用いたウイルスの分離培養法の確立とウイルスの細胞毒性評価 各ウイルスの哺乳類培養細胞への感染能を検証した。まず、ハムスター由来株化細胞であるBHK-21細胞(BHK)をC6/36の培養温度である28℃に馴化させた後、各ウイルスを接種し、28℃で3代盲継代したところ、YUOVおよびGXOVを接種した細胞は3代目でCPEを示した。この培養上清を通常のBHKに接種し、37℃で培養したところ、両ウイルスを接種した細胞はそれぞれ1代目からCPEを示した。一方、YONOVを接種したBHKは28℃でもCPEを示さなかった。これら3種のウイルスは国内外で分離されているが、哺乳類培養細胞を用いた分離成功例はない。したがってこれらのウイルスの哺乳類培養細胞に対する感染能や細胞毒性等は不明である。今回、BHKで培養可能となったYUOVおよびGXOVは、両ウイルスの病原性等をin vitroで解析する上での有用なツールとなるものと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目的は、1) 新興オルビウイルスの診断法確立と疫学調査および2) 哺乳類細胞を用いたウイルスの分離培養法の確立とウイルスの細胞毒性評価に大別される。1)については、リアルタイムRT-PCRおよびコンベンショナルRT-PCRによる各ウイルスのVP6遺伝子検出系を確立させた。両PCR法は、各ウイルスをTm値または増幅産物のサイズによって識別可能なため、今後条件検討を重ねることで、マルチプレックスPCRとして活用可能と考えられる。また、YUOV, YONOVおよびGXOVの持続感染細胞を作出することに成功した。今後、この持続感染細胞を用いることにより、間接蛍光抗体法による各ウイルスの抗体検出が可能となると考えられる。 2)については、これまでC6/36細胞でしか感染が成立しなかったYUOVおよびGXOVがBHK細胞に対して感染・増殖能を有していることを明らかにした。研究立案時には、ウイルス濃縮により力価の高いウイルスを大量にBHKに接種することや、培養継代数の限られる哺乳類初代培養細胞を用いることを計画していたが、BHKを低温培養することで、想定よりも早く哺乳類株化細胞(BHK)馴化ウイルス(YUOVおよびGXOV)を作出することができた。以上より、本研究はおおむね順調に進んでいるものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
1) 新興オルビウイルスの診断法確立と疫学調査 バキュロウイルス発現系を用いて、YUOV, YONOVおよびGXOVのVP7(内殻カプシド蛋白質)を組換え蛋白質として発現させる。現在、PCRにより各ウイルスのVP7遺伝子全領域をクローニング済みである。得られた組換えタンパク質を抗原として抗体検出エライザ法を確立させる(R6-7)。野外から牛の血清および血球を収集し、確立されたエライザ法とR5年度に確立させたウイルス遺伝子検査法を用いて、国内の新興オルビウイルス感染状況を調査する(R8)。 2)哺乳類細胞を用いたウイルスの分離培養法の確立とウイルスの細胞毒性評価 BHKに馴化したウイルスを用いて、他の哺乳類培養細胞(株化細胞または初代培養細胞)に対する感染能を検証する。YONOVについては、濃縮ウイルスまたは持続感染細胞との共培養等の手段を用いてBHKへの馴化を試みる。哺乳類培養細胞に馴化したウイルスについては、次世代シーケンシングにより全ゲノム配列を解析する。得られた配列をC6/36に馴化したウイルスのそれと比較し、異種細胞への馴化の過程で生じるウイルス遺伝子の変異を解析する。検出された遺伝子変異より、ウイルスが宿主細胞で増殖するために必要な因子の解明を試みる(R6-R8)。
|
次年度使用額が生じた理由 |
想定よりも価格の安い消耗品があったためと考えられる。次年度消耗品代として使用する予定である。
|