研究課題/領域番号 |
23K05600
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大野 民生 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90293620)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | NCマウス / アトピー性皮膚炎 / アレルギー感受性 / ゲノム編集 / 原因遺伝子 |
研究実績の概要 |
マウスNC系統はアトピー性皮膚炎(AD)以外に多様なアレルギー症状を示すがその原因遺伝子はほとんど解明されていない。研究代表者はNC系統のゲノム解析等から、アレルギー感受性と皮膚バリア機能異常の原因として、それぞれCd72遺伝子とCtsh遺伝子に有力な候補遺伝子変異を見出した。本研究ではこれらの候補遺伝子変異について、ゲノム編集技術を用いてNC系統を遺伝背景とするノックイン(KI)マウスを作製して、AD発症の原因遺伝子を同定しその分子機構を解明する事を目的とした。本年度は、主に2種の候補遺伝子(Cd72, Ctsh)のノックイン(KI)マウスの作製を行った。CD72はB細胞表面に発現しB細胞の活性化を抑制する受容体である。NC系統のCD72は細胞外ドメインをコードするエクソン8が部分欠損しているため、その領域をC57BL/6J(以下B6J)型に置換したKIマウスの作製を試みた。NC系統の受精卵に当該遺伝子のDNAを切断するガイドRNAと、そこを相補するB6J型の一本鎖DNAを注入して、B6J型のアレルを持つファウンダー個体を得た。そこ個体を起源としてB6J型のアレルをホモ化したKI系統を樹立した。NC系統はネズミマラリア原虫(P. chabaudi AS株)感染時にⅢ型アレルギーである膜性増殖性糸球体腎炎(マラリア腎症)を発症する。CD72の膜性増殖性糸球体腎炎発症への関与を解析するため、NC系統と樹立したNC-CD72・KI系統にP. chabaudi AS株の感染実験を開始した。CTSHは皮膚などに発現する分泌型のタンパク質で、NC系統のCTSHは131番目のアミノ酸(リシン)がイソロイシンに置換する1塩基置換が存在している。この領域を上述のCD72と同様の方法でB6J型に置換したKIマウスの作製を試み、NC-CTSH・KI系統のファウンダー個体を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゲノム編集技術を用いてNC系統のCD72遺伝子とCtsh遺伝子のKIマウスの作製を行った。前者については無事にNC-CD72・KI系統が樹立できたが、後者についてはNC系統の変異部位をB6Jアレルに置換したファウンダー個体がなかなか得られなかった(原因不明)。繰り返し作製を試みて最終的にファウンダー個体の確保に成功したが、まだ当該領域のB6J型のアレルのホモ化が完了しておらず、NC-Ctsh・KI系統は樹立できていない。そのため、研究は当初の想定より少し遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
CD72について:引き続きNC系統とNC-CD72・KI系統にP. chabaudi AS株の感染実験を行い、マラリア腎症(Ⅲ型アレルギー)へのCD72変異の関与について検証する。更に、CD72変異がADの発症に関与しているかを解析するため、NC系統とNC-CD72・KI系統の皮膚炎発症の有無を1ヶ月間隔で8ヶ月齢まで観察する(NCマウスは4ヶ月齢頃から飼料に含まれる魚粉等を抗原として徐々に皮膚炎を発症する)。8ヶ月齢でサンプリングを行い血中のIgE値、IL4やIFN-γ等のサイトカイン量の測定、皮膚におけるIL4やIFN-γ等の遺伝子発現解析、皮膚組織の病理学的検討を行う。なお、AD発症までの時間を短縮するために、チリダニ抗原の連続塗布法により、ADを早期発症(誘発)させて解析する事も検討する。CTSHについて:NC-Ctsh・KIのファウンダー個体を起源として、B6J型のアレルをホモ化したNC-Ctsh・KI系統の樹立を行う。その上で、上述のCD72の場合と同様の方法で、NC系統とNC-Ctsh・KI系統についてADの発症について比較解析を行う。2種のKIマウスの皮膚炎発症の解析が終了したら、両者(CD72とCTSH)の相互作用の解析を行うため、NC-CD72・KI系統とNC-Ctsh・KI系統を交配させて、ダブルKIマウス(NC-CD72・KI, Ctsh・KI)の作製に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
NC-CD72・KI系統では直ぐにファウンダー個体が得られたが、何故かNC-Ctsh・KI系統ではファウンダー個体を得るのに苦労し系統の樹立が遅れた。それに伴い、昨年度に実施する予定だったNC-Ctsh・KI系統を用いた表現型解析に着手できなかったため、次年度使用額が生じた。その次年度使用額は、昨年度実施できなかった系統樹立と表現型解析の実施ために本年度に使用する。
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