研究課題
慢性腎臓病(CKD)は初期段階では特定の原因疾患に起因する病態を示すが、多くの症例で糸球体の障害に続く蛋白尿、尿細管障害、腎間質の線維化といった共通の病態に進行することが観察される。特に腎間質の線維化はCKDにおける腎機能低下および予後に顕著な相関を示すため、腎間質線維化の進行を抑制する戦略が極めて重要である。本研究課題では、「新規腎症悪性化因子MSASに関連するCKDの悪化機構を解明し、それを創薬の対象とする」ことを目的としている。当研究室は、Tensin2遺伝子の欠損変異を有するマウスが遺伝的背景により腎症を発症する系統と発症しない系統が存在することを発見し、腎症修飾遺伝子座に注目し、次世代シークエンサーを用いて系統間のRNA-seq解析を実施した。その結果、感受性系統におけるMSASの異常な高発現を確認した。2023年度はMSASのノックアウトマウスおよびMSAS過剰発現トランスジェニックマウスを作出し、定常状態での腎機能に影響がないかを精査した。その結果、MSASのノックアウトマウスおよびMSAS過剰発現トランスジェニックマウスは、血清クレアチニン測定、尿タンパク検査、およびHE染色/PAS染色の結果、腎臓の発生・構造及び腎機能が正常であることが確認された。これにより、MSASがCKDの進行や腎機能低下に直接的な影響を与えないことが示唆された。しかし、腎障害が進行した状況下でのMSASの役割や、その高発現が腎機能に及ぼす影響については、今後さらに詳細な研究が必要である。MSASの役割を明らかにすることは、CKDの進行を抑制する新たな治療法の開発に貢献する可能性がある。MSASの異常な高発現が腎症の進行を促進するメカニズムを解明し、それを標的とする創薬研究を進めることが求められる。これにより、CKD患者の予後改善や生活の質向上につながる新しい治療法が期待される。
2: おおむね順調に進展している
MSASノックアウトホモマウスおよびMSAS過剰発現トランスジェニックマウスの作出が順調に進み、どちらも正常であり、繁殖も正常であったため。
2024年度は、MSASノックアウトマウスおよびMSAS過剰発現トランスジェニックマウスにTensin2変異を導入した原発性糸球体硬化症腎症モデル、または、Prkdc変異を導入したアドリアマイシン感受性腎症モデルを交配し、2種類の異なる原疾患に基づく腎症を誘発することでCKDの発症を試みる。これらのマウスモデルにおけるCKDの感受性の変化を評価するために、血清クレアチニンの測定、尿タンパク検査、および組織病理学的解析を含む一連の検査を行う。これにより、MSASがCKDの病態進行に与える影響を精密に分析する。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (1件)
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