研究課題
神経細胞は厳格な極性と複雑な形態を持ち、シナプスを介して他の神経細胞やグリア細胞と連絡を取り合い、情報を伝達する。この驚異的な処理能力は、受容体・チャネル・シナプス小胞・細胞骨格等を構成するタンパク質の緻密に制御された発現に支えられている。そのため、研究対象とする分子が細胞体に発現するのか、軸索や樹状突起にあるのか、シナプスに局在するのかという位置情報は、その機能を知る上で必須である。標的タンパク質の細胞内局在を生体内組織レベルで可視化しようとする際、シグナル対ノイズ比(S/N比)が大きい良質な抗体が市販されておらず、入手できないという問題が頻発する。対処法として、標的タンパク質に「タグ」を付加したノックインマウスをゲノム編集により作出し、タグに対する特異的抗体を用いて検出する手法をとるが、従来のエピトープタグでは依然、標的分子の細胞内局在を高解像度で検 出するには不十分であった。本研究では、近年開発された複数の新規タグについて、マウス組織への適用が有効であるかどうかを評価選別し、神経科学のみならず、1細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)全盛期の生命科学研究全般を支える、より高感度なタンパク質局在可視化技術として確立することを目的とする。当該年度は、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)に属するオキシトシン受容体(Oxtr)を対象として、smFP-HAタグ(Spaghetti Monster)、ALFAタグ、Halo Tag(化学タグ)のノックインマウスを作出する計画であったが、受精卵を用いたゲノム編集法により、これら3つの新規タグのノックインマウス系統を樹立することができた。
2: おおむね順調に進展している
過去の研究において樹立した従来型エピトープタグ(HAタグ)ノックインマウスと比較するため、前項の「研究実績の概要」に記した3種の新規タグノックインマウスを予定通り作出することができた。
「研究実績の概要」に記した3種の新規タグノックインマウスについて、下記のように、過去において作製した従来型エピトープタグ(HAタグ)ノックインマウスと比較し、新規タグの有効性を検証する。(1)過去において樹立したオキシトシン受容体-HAタグノックインマウスでは、オキシトシン受容体の発現が高い幼若期マウス脳では比較的感度良くタンパク質局在を検出できていたが、週齢が進んだ成体脳ではシグナルが不鮮明であったので、新規タグノックインマウスで改善されているかを確認する。(2)過去において樹立したオキシトシン受容体-HAタグノックインマウスでは、オキシトシン受容体の発現が低い小脳での検出が困難であったので、新規タグノックインマウスで改善されているかを確認する。これまでツール不足のためほとんど報告がない神経発生発達期のオキシトシン受容体の発現変容について、新規タグノックインマウスを用いて観察する。(3)過去において樹立したオキシトシン受容体-HAタグノックインマウスでは神経細胞の軸索末端や樹状突起スパインでのタンパク質局在を検出するには不十分であったので、新規タグノックインマウスを用いて、超解像度顕微鏡での観察が可能かを検証する。
人件費の支出が無かったのは、他研究課題との共有によりまかなえたため。次年度使用計画としては、実験用マウスの購入、飼育費、および研究成果を論文投稿する費用として充てる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
Nature Communications
巻: 15 ページ: 458
10.1038/s41467-023-44579-z
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https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r6/