研究課題/領域番号 |
23K05661
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
幡野 その子 愛知医科大学, 分子医科学研究所, 助教 (40434625)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | コンドロイチン硫酸 / 間葉系幹細胞 / 分化能 / 自己複製能 |
研究実績の概要 |
間葉系幹細胞は自己複製能と分化能を有した多能性幹細胞のひとつで、再生医療の細胞供給源として期待されている。既に組織の修復・再生には培養した間葉系幹細胞細胞が利用されているが、培養の過程で細胞の性質が変わることや細胞集団のバラツキが生じることが問題となっている。安定的に間葉系幹細胞を得るために様々な培養基材や培地などの開発が進められていることから、申請者は細胞外マトリックス成分であるコンドロイチン硫酸を利用できると考えた。コンドロイチン硫酸はグルクロン酸(GlcAC)とN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)の二糖単位が数十回繰り返し連なった直鎖上の糖鎖で、硫酸基の修飾を受けて多様な構造をとる。主な二糖構造は、非硫酸化単位(CH)、GalNAc残基C-4位(CSA)およびC-6位(CSC)の一硫酸化単位、GalNAcC-4位とC-6位の二硫酸化単位(CSE)、GlcAC-2位とGalNAcC-6位の二硫酸化単位(CSD)、およびGlcAC-2位とGalNAcC-4位とC-6位の三硫酸化単位(TriS)となっている。このような硫酸化度の違いや糖鎖長の違いに応じて相互作用する生理活性因子の種類や機能を細胞外で調整することによって、細胞の挙動を制御すると考えられている。 間葉系幹細胞は培養液や添加された生理活性因子によって、軟骨細胞、骨芽細胞、脂肪細胞などに分化する多分化能が知られている。これまでのところ本研究では、コンドロイチン硫酸量を減少させた間葉系幹細胞を用いて分化誘導実験を行ったところ、どの方向に対しても野生型に比べて分化が遅延していたことがわかった。今後、本研究では各種コンドロイチン硫酸を用いて操作した細胞外微小環境により間葉系幹細胞の機能を制御し、その制御機構を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
間葉系幹細胞は軟骨細胞、骨細胞、脂肪細胞など様々な方向に分化するが、その際に各分化の方向性に適した生理活性因子が必要である。この時、最適な細胞外微小環境を構築することによってより安定的な分化誘導を促すことは重要である。現在は最適な細胞外微小環境を見出すため、生体内コンドロイチン硫酸量の違う3種類の遺伝子改変マウス由来の間葉系幹細胞を用いて自己複製能、分化能の相違を解析している。これらマウスはコンドロイチン硫酸合成酵素の遺伝子を改変したもので、生体内のコンドロイチン硫酸量はそれぞれ野生型の約80%, 50%, 30%となっている。6週齢のマウスの大腿骨、脛骨および骨髄から血球系以外の細胞を採取し、特定の細胞表面マーカーで間葉系幹細胞を選別した後分化誘導を行う。この際、実験に必要な一定数の細胞を揃えることと分化誘導に一定の時間が掛かるため、結果を得るのに長い時間を要する。このような状況下でも安定して細胞が得られているので、現段階では概ね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標は各種コンドロイチン硫酸を用いて操作した細胞外微小環境により間葉系幹細胞の機能を制御し、その制御機構を明らかにすることである。そのためには現在行なっている遺伝子改変マウスを用いた実験から、間葉系幹細胞の自己複製能と分化能の促進に適した細胞の状態および細胞外環境を特定する。得られた結果を基に、私達の研究室に揃っている各種コンドロイチン硫酸を培養基材として用いて、間葉系幹細胞の自己複製能と分化能を促進する細胞外微小環境整える。その後、ヒト間葉系幹細胞を用いて整えた細胞外微小環境が有効かどうかを検証する。コンドロイチン硫酸は動物種によって硫酸化の違いが多少存在するが、構造的に大きな相違がないため、そのまま利用することは可能である。この時、ヒト間葉系幹細胞に不都合な反応が現れた場合、硫酸化度の違うコンドロイチン硫酸に置き換えるなど微調整によって克服できると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に取得した科学研究費の基盤研究(C)は2022年度に終了予定だったが、新型コロナ感染症によるパンデミックの影響により、余剰分が発生しそれを使用しなければならなかったため次年度使用額が生じた。
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