研究課題/領域番号 |
23K05667
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
池上 貴久 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (20283939)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | NMR / GAPDH / LDH / 解糖系 / ホモ多量体 / 乳酸脱水素酵素 / 乳酸発酵 |
研究実績の概要 |
生物はグルコースを取り込み、解糖系においてピルビン酸にまで代謝する。このピルビン酸はミトコンドリアにまで拡散し、その中でクエン酸回路に入り込む。しかし、急速にエネルギーが必要な際や酸素欠乏時にはピルビン酸は乳酸発酵の経路に入る。解糖系で機能する酵素としてグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)があり、発酵で機能する酵素として乳酸脱水素酵素(LDHA)がある。前者は補酵素として NAD を取り込み NADH を放出する。一方 LDH はその逆である。よって、両者が細胞質内で近くにあれば、補酵素の授受が効率よく行われるはずである。数十年前より、GAPDH と LDH が局在化しているという観察例があるが、in-vitro で実際にこれが観測された例はほとんどなく、相互作用はあっても動的で遷移的であると考えられている。そこで、筆者は NMR を用いてこの相互作用の検出を試みた。まず LDH を 15N, 13C, 2H 標識体として調製すべく、プラスミドを調製し大腸菌にて発現を試みた。その結果、大量の LDHA を発現させることに成功した。しかし、そのうちの9割程が封入体となってしまうため、培養温度を下げるなどさまざまな条件の検討をおこなった。しかし、今のところ大きな改善は得られていない。GAPDH 側を 15N, 13C, 2H で標識し LDHA 側を非標識にて混合し NMR で測定したところ、数個のピークに変化が見られた。しかし、相互作用の面積を考えると摂動を受けたピークの個数が少ないため、これは非特異的相互作用であるとみている。細胞内環境でないと相互作用しないとも示唆されていることから、今後は、細胞内環境を疑似的に作りだす、NAD ・ NADH などを加えたり除いたりするなど、条件を変えて同様の観測を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね予定通りに進行しているが、LDHA が発現のための大腸菌内において正しく fold すれば、サンプル調製に費やす時間を大幅に節約できるため、より研究を促進できるはずである。また、相互作用の有無については、GAPDH 側を安定同位体で標識するだけでも可能ではあるが、両者の相互作用部位を同定するには、どうしても LDHA 側も標識したい。そのためには、封入体にいく割合をもっと減らす必要がある。Arctic Express などのコンピテントセルの形質転換なども試みたが、今のところ改善策は得られていないが、溶解性を増進させるためのタグ蛋白質(Trigger Factor など)を N 末端側につけることなどを検討している。その場合、LDHA がホモ四量体を組むことを考慮し、四次構造形成に干渉しないようなタグを選ぶ必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
GAPDH と LDHA は、in-vitro そのままの状態では相互作用が検出できず、細胞内環境に似た条件、例えばグリセロールやフィコールなどを加えた状況で検出できるとされている(ただし、それはまだ Native-PAGE の結果による Sci. Rep. (2020) 10(1), 10404)。また、補酵素である NAD ・ NADH の有無によっても相互作用の on/off が切り替わる可能性があり、これら補酵素の有無の条件も変える必要がある。以前より GAPDH のメチル基の帰属を進めており、相互作用が NMR で検出されれば、少なくとも GAPDH のどの領域が関与しているかは分かるはずである。同様に LDHA 側のメチル基の帰属も必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
円安の影響もあり、15N 塩化アンモニウム、13C グルコース、2H 重水の価格が 3-4 倍に上昇し、NMR 一回の測定用のサンプルを調製するのに 50 万円ほどかかることになった。このように予定通りに安定同位体を使用すると、予算をすぐに超過してしまうため、まずは非標識の試料を用いて、サンプル調製の条件をできる限り慎重に検討しながら進めることとした。次年度使用額があるが、次年度でのサンプル調製に活用する予定である。
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