研究課題
オルガネラは様々な細胞プロセスに重要な機能を担うため、その質や量は厳密に制御される。そうした制御の一つに選択的オートファジーが挙げられる。選択的オートファジーはオルガネラの一部を隔離膜と呼ばれる脂質膜構造で取り囲み、球状の小胞(オートファゴソーム)を形成する。このオートファゴソームをリソソーム・液胞へと輸送して融合することで、リソソーム・液胞に含まれる分解酵素により隔離成分を分解する。これまでに、分裂酵母を解析モデルに、ミトコンドリア、小胞体、ペルオキシソームの選択的な分解に必要な因子を同定してきた。各因子は選択的オートファジーの様々な過程で機能すると予想される。そこで、これら因子の解析により、オルガネラ分解のしくみと制御機構について明らかにすることが本研究の目的である。機能解析の結果、ミトコンドリアの選択的オートファジーに必要な因子として同定したAtg44が、ミトコンドリア分裂を促進する因子であると結論づけた。一方、既知のミトコンドリア分裂因子であるダイナミン様タンパク質Dnm1は、ミトコンドリアのオートファジー分解には必要でなかった。したがって、Atg44はDnm1と独立にミトコンドリア形態を制御する新規のミトコンドリア分裂因子といえる。Dnm1がミトコンドリア外膜上で外側から作用するのに対し、Atg44は膜間腔領域から主に内膜に作用することが示唆された。一方、小胞体の選択的分解に必要な因子として同定したHva22は、小胞体に局在する3回膜貫通型のタンパク質で、小胞体の形態制御に関わることが示唆された。以上の結果から、オルガネラの選択的オートファジーには、これまで知られていた「隔離膜伸長の場をオルガネラの一部にリクルートする」過程に加えて、「オルガネラの形態を制御することで隔離膜内に収納可能なオルガネラ断片を形成する」過程が重要であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
選択的なオートファジーによるミトコンドリアと小胞体の分解に特異的に必要な因子であるAtg44とHva22について機能解析を行い、いずれもオルガネラの形態制御を介して選択的オートファジーに寄与することを明らかにした。スクリーニングで得られた因子の特徴づけに成功したことに加え、オルガネラオートファジーの機構において形態制御の過程が重要であることを示す知見を得ることができた。更に、これらの成果を論文発表することができた。一方で、オルガネラオートファジーに関する新規性の高い知見であったため、Atg44とHva22の機能を様々な種類の解析により確認し、慎重に裏付けを行ったため、当初の想定以上に分子特性の同定に時間を費やした側面もある。
引き続きAtg44とHva22に関する詳細な機能解析を行う。いずれも進化的に保存されたタンパク質であるため、類似タンパク質と機能を比較する視点も新たに導入する。また、オルガネラオートファジーに関与することが予想される他の因子についても、分子特性の同定を行い、オルガネラオートファジーの機構や制御についてさらなる検証を進める。
研究の進捗に応じて当初想定していた予算執行計画の一部を変更したため、未使用額が生じた。これは主に、Atg44とHva22に関する知見の新規性が高かったため、他のオルガネラオートファジー因子に優先してこれらの解析に注力したことによる。次年度は、他の因子の機能解析も併せて行うことで、オルガネラオートファジーの機序を明らかにする。そのため、酵母細胞を培養して解析するのに用いる設備と消耗品、タンパク質解析用試薬、酵素やオリゴヌクレオチドを含むDNA解析用の試薬に助成金を使用する。
すべて 2023 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Molecular and Cellular Biology
巻: 43 ページ: 675~692
10.1080/10985549.2023.2282349
Autophagy
巻: 19 ページ: 3019~3021
10.1080/15548627.2023.2237343
Molecular Cell
巻: 83 ページ: 1953~1955
10.1016/j.molcel.2023.05.016
巻: 83 ページ: 2045~2058.e9
10.1016/j.molcel.2023.04.022
巻: 19 ページ: 2657~2667
10.1080/15548627.2023.2214029
https://www.niigata-u.ac.jp/news/2023/406718/