研究課題/領域番号 |
23K05700
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
米田 敦子 東京薬科大学, 生命科学部, 講師 (80590372)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 癌 / イノシトールリン脂質 / 細胞接着 / 細胞死 |
研究実績の概要 |
細胞膜は脂質2重層(内葉と外葉)からなり、その2層の脂質組成は異なる。しかし、アポトーシス時に内葉のホスファチジルセリンが外葉に露出して、マクロファージによる貪食のシグナルとなるなど、一過的に反転する脂質がある。我々の研究室では、細胞膜内葉にのみ存在するとされ、様々な細胞応答に重要な働きをするホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP2)が、細胞膜外葉にも存在し、がん細胞の接着・遊走に関与することを報告した。加えて最近、外葉PIP2が、種々のがんの予後不良と相関する特殊な細胞死に関与することを見出した。以上のことから、外葉 PIP2 の機能抑制によりがん細胞の悪性形質を抑制できるという仮説を立てた。本研究では、外葉 PIP2 によるがん細胞接着、遊走、細胞死の制御機構を明らかにすること、PIP2 露出機構とその意義を明らかにすること、外葉 PIP2 あるいは関連分子を標的とするがん細胞悪性形質阻害化合物を同定することを目的とする。 2023年度は、外葉PIP2依存的細胞接着・遊走や特殊な細胞死に関わる細胞膜タンパク質を同定するため、外葉PIP2近傍タンパク質候補分子を複数同定した。これら候補分子の発現抑制により、外葉 PIP2 依存的細胞接着が減少する分子を3種同定した。さらに、これらの候補分子が外葉PIP2依存的な特殊な細胞死に関与するかを検証中である。また、PIP2 露出酵素候補について先行研究で見出した酵素 Aに加え、酵素Yの関与を示唆する結果を得た。これらの結果の一部を学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外葉PIP2依存的細胞応答に関わる細胞膜タンパク質を同定するため、ヒト大腸がん細胞DLD-1を用い、外葉PIP2の近傍に存在する細胞膜タンパク質を単離し、マススペクトル解析により同定した。このうち、細胞接着への関連が報告されている細胞膜タンパク質について、外葉PIP2依存的細胞応答を示す複数の細胞の可溶化液をウエスタンブロッティングにより解析した。共通して発現が認められたタンパク質をsiRNAにより発現抑制し、外葉 PIP2 依存的細胞接着が減少する分子3種に絞り込んだ。先行研究で候補となった分子Bと本年度挙がった候補分子3種が、外葉PIP2依存的な特殊な細胞死に関与するかを検証中である。また、DLD-1細胞での発現抑制と外葉PIP2染色により、PIP2 露出酵素候補として新たにYの関与を示唆する結果を得た。これにより、先行研究で見出した酵素 Aに加え、酵素Yも外葉PIP2量の制御に関わることが示唆され、外葉PIP2量の制御は複雑であることが考えられた。これらの結果の一部を学会で発表しており、順調に進行していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に候補として挙がった外葉PIP2近傍タンパク質のうち、細胞接着への関わりが示唆された分子については、その過剰発現の影響や、細胞局在解析などを進める。また、外葉PIP2依存的な特殊な細胞死への関わりについては発現抑制の影響の解析を進め、標的分子の絞り込みをする。PIP2反転酵素候補AとYを発現変化させ、外葉PIP2近傍タンパク質の局在や活性変化への影響を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:候補タンパク質絞り込みのための発現抑制と解析は小スケール実験で解析可能であったことなどから、比較的少ない支出となった。 使用計画:細胞膜外葉 PIP2 近傍タンパク質の細胞接着制御機構の解明と、細胞膜外葉PIP2依存的な特殊な細胞死への関与分子の特定を行う。そのため、細胞生物学、分子生物学、生化学実験に必要な費用(キット、抗体、酵素、培養器具など)と、委託解析、学会参加のための旅費などに使用する予定である。
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備考 |
東京薬科大学生命科学部ゲノム情報医科学研究室ホームページ https://toyaku-ls-genomics.com/
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