研究課題
ミオシンのN末端内に存在する2ndアクチン結合領域とアクチンとの結合状態を明らかにするため、共同研究者の理化学研究所の豊岡博士および名古屋大学の成田博士の協力のもと電子顕微鏡観察を行った。シロイヌナズナのミオシンXIのMYA2のモータードメイン(MD)をアクチンとrigor結合させ、酢酸ウランを使ったネガティブ染色を試みた。MDはUpper 50kからLower 50kサブドメインにかけての領域に存在する既存のアクチン結合領域でアクチンと結合していたが、既存のアクチン結合領域以外でもアクチンと結合することによりアクチンの束化を引き起こしていることがわかった。この結果は、申請者のこれまでのAFM観察、蛍光顕微鏡観察、変異ミオシンによる新規アクチン結合領域を示唆する実験結果を裏づけるものである。次に、新規アクチン結合領域により束化したアクチン繊維の極性が揃っているかどうか検証を試みた。通常、ネガティブ染色におけるアクチン繊維の極性確認はミオシンの反矢じり構造をメルクマールに行う。しかし、今回実験に使ったミオシンコンストラクトはMDなのでレバーアーム部分が極めて短い。そのため、反矢じり構造の確認が難しかった。そこで、アクチン繊維の捻じれ方向により極性を明らかにしようと試みた。しかし、この方法では「束化していない長い1本のアクチン繊維部分」が必要である。すなわち、一部分で束化しているが、一部分で束化していない2本のアクチン繊維が必要となる。この条件となるようにミオシン、アクチンのそれぞれの濃度を変えて束化実験を行った。その結果、電子顕微鏡観察によりこの条件を見つけることができた。しかし、捻じれ方向による極性解析を行える束の例数が少なく定量的な解析には至っていない。現在、レバーアームが長く反矢じり構造の判別が可能な、6IQコンストラクトを検討している。
2: おおむね順調に進展している
電子顕微鏡の条件設定に試行錯誤を行う必要があり、それに時間がかかったが、おおむね順調に進展している。
電子顕微鏡観察においては、これまでのレバーアームが極めて短いMDコンストラクトではなく、IQモチーフを6つ持つレバーアームが長い6IQコンストラクトを用いる。これまで、ミオシンXIのIQモチーフに結合する軽鎖が何であるかは不明であった。カルモジュリンは軽鎖としての機能が弱く、他のタンパク質の可能性が高かった。最近、カナダのクイーンズ大学のSnedden教授との共同研究で、ミオシンXIに結合する軽鎖としてカルモジュリンライクタンパク質(CML)が有力な候補であることがわかった。in vitro運動アッセイでこれを検証したところ、ミオシンXIのMYA2のIQモチーフにはCML14が軽鎖として機能することがわかった。今後は、CML14をMYA2の6IQコンストラクトと昆虫細胞で共発現させ、精製したMYA2の6IQを用いて電子顕微鏡観察を行う。MDと異なり、反矢じり構造でアクチン繊維の極性が判別できるので、「束化していない長い1本のアクチン繊維部分」は必要なく、高いミオシン、アクチン濃度で実験が行え、極性の判別も容易であると考えられる。N末端から121-185アミノ酸部分に存在する2ndアクチン結合領域のさらなる絞り込みを変異実験により行う。また、つい最近発表されたalphafold3によりMYA2MDとGアクチン3分子との間で結合モデルを試したところ、ほぼ同じ領域がアクチンに結合することがわかった。2ndアクチン結合領域のさらなる絞り込みは、AIによる予測構造も参考にして変異実験を行うとともに、化学架橋剤による結合箇所の同定も行っていきたい。ミオシンXIの2ndアクチン結合領域の生理的機能の解明のため、MYA2遺伝子が欠失しアクチン配向が乱れたシロイヌナズナ株にN末端領域を欠失したMYA2遺伝子を導入した株は、T3まで世代を進めて蛍光顕微鏡観察を行う予定である。
本研究の最終目標は、代表者が責任著者として、当該プロジェクトの研究成果を国際的なジャーナルに発表することである。2報程度の論文の発表を目指している。近年、円安とインフレの影響で論文掲載料が高騰しており、特にインパクトファクター(IF)が高いジャーナルで顕著である。そのため、最終目標の当該プロジェクトに関しての論文掲載に向けて、消耗品の使用は必要最小限に抑えるよう努力している。また、本年度は代表者が責任著者としての当該研究プロジェクトに関しては論文投稿がなされず、クライオ電子顕微鏡の使用もなかったため、使用額が少なかった。この分の経費は、次年度以降のクライオ電子顕微鏡の使用および論文投稿に必須であることを申しおきしておく。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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