研究課題/領域番号 |
23K05726
|
研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
石田 恒 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 上席研究員 (60360418)
|
研究分担者 |
角南 智子 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 主幹研究員 (50554648)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | DNA / インターカレーション / 分子動力学シミュレーション / 自由エネルギー / ヌクレオソーム / SYBR-Gold / YOYO1 / ドキソルビシン |
研究実績の概要 |
遺伝子の機能発現を調節する分子は、DNA構造を認識してDNAと相互作用する。特に、インターカレーションを引き起こすインターカレーターには、発がん物質もあればドキソルビシンのような抗がん剤がある。さらにドキソルビシンは直接、ヌクレオソームの構造を変化させる。 本年度は、インターカレーションを引き起こす分子動力学シミュレーションおよび光ピンセット測定を実施した。分子動力学シミュレーションでは、18塩基対DNA において引き延ばしと縮める運動を繰り返すことでインターカレーター(SYBR-Gold、YOYO1、ドキソルビシン)のインターカレーションを促進することができた。これにより、インターカレーターがDNAの広い溝と狭い溝から様々な塩基配列にインターカレーションした構造を得た。これらの構造のいくつかに対してアンブレラサンプリングシミュレーションを実施することにより、インターカレーション状態DNAの構造変化に対する自由エネルギー地形を計算した。結果、SYBR-Goldやドキソルビシンでは1分子あたり約0.3nm程度DNAが伸長し、YOYO1では1分子あたり約0.6nm程度DNAが伸長した。またインターカレーション状態のDNAを引き延ばすのに必要な力は20から40pN程度と見積もることができた。 光ピンセット測定では、両端をビオチン化したλDNAを作成して、SYBR-Gold存在下で光ピンセット実験を行った。結果、DNAへのSYBR-Goldのインターカレーションが1分子あたり0.33nmの距離の変化を生じること、また、結合定数は1.7*10^5 Mと見積もった。 以上のように、分子動力学シミュレーションと光ピンセット測定で観測されたDNA構造変化はよく似ており、妥当な結果であると判断できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、ほぼ計画通りに研究が進捗している。
|
今後の研究の推進方策 |
インターカレーター(SYBR Gold、YOYO1、抗がん剤ドキソルビシン)がインターカレーションした状態のDNAについて、構造解析を継続する。そして、インターカレーションの時定数や、DNAの伸び、曲げ、ねじれに関する物性を解析する。さらに、ドキソルビシンとヌクレオソームの分子動力学を実施する。そして、ドキソルビシンがヌクレオソームDNAにインターカレーションする過程、およびドキソルビシンがヌクレオソームDNAの構造変化に及ぼす影響を解析する。 光ピンセットでは、SYBR Gold以外のインターカレーターやヌクレオソーム存在下でのインターカレーター結合の測定を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
計画当初、インターカレーション状態のDNA構造変化データ解析のために、高速演算可能なPCクラスタとファイルサーバを購入することを検討していたが、定量的解析に必要となるサンプリングデータが当初より少なくて済むことが計算解析により予測できた。そのため今年度は、既存のワークステーションで解析を実施した。ただし、令和6年度においては、令和5年度に出力された追加サンプリングデータおよびインターカレーション状態のヌクレオソームのサンプリングデータを入れたDNA・ヌクレオソームの構造変化解析を実行する。そのため、大規模解析計算に必要な資源を追加購入する予定である。
|