研究課題/領域番号 |
23K05730
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
冨川 順子 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 周産期病態研究部, 研究員 (80534990)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 3Dゲノム高次構造 / lncRNA / 初期発生 |
研究実績の概要 |
間期の各染色体DNAは染色体テリトリーに区画化されていることから、遺伝子群の発現制御は染色体内相互作用により形成されるTADなどによる制御が一般的と考えられがちである。しかし、ゲノムDNAは各染色体内のみではなく異なる染色体間でも相互作用し、遺伝子発現の制御、さらには細胞運命を決定づけていると考えられる。 マウス全能性胚は体細胞に比べて染色体間相互作用の割合が高く、TAD構造が未熟な点からも、染色体間相互作用を介したゲノム高次構造がより重要な役割を果たしている可能性が高い。実際にマウス2細胞期胚(全能性細胞)では染色体間相互作用を介した興味深いハブ構造を形成していることがわかった。 本研究では、まず、この全能性細胞特異的なゲノム高次構造が全能性の獲得、またその後の発生でどのような役割を担っているのか、その中心となっているハブ領域欠損マウスを作製し、表現型を解析する。 また、こうしたゲノム高次構造構築に関わる因子として想定されるLong non-coding RNAs(lncRNAs)の同定を目的として、CRISPRiを用いたlncRNAのスクリーニング実験を行う。スクリーニングには、2細胞期胚と類似した特徴を有する2-cell like cells(2CLCs)の出現が確認できるよう、MERVLプロモーターにEGFPを結合させた配列をノックインしたES細胞株を用い、dCas9-KRAB-MeCP2とプールさせたsingle-guide RNAs(sgRNAs)を順次ES細胞内で発現させるマルチガイドCRISPRiにより、lncRNAの発現を抑制させ、数日間培養後、2CLCの出現頻度をFACSにより検証する。回収した2CLCsのRNA-seqで網羅的に解析することにより、発現が変動したlncRNAを同定する。同定されたlncRNAの機能は、受精卵でのノックダウン実験を行い検証する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、CRISPR/Cas9システムにより、ハブ構造の中心となっている17番染色体上の領域をヘテロで欠損したマウス2匹の作出に成功した。野生型マウスとの交配により、ヘテロ欠損マウスの数を増やそうと試みたのだが、産仔の死亡率があまりにも高く、得られたヘテロ欠損個体はF0世代、F1世代、F2世代を合わせてもまだ5匹しかいない。ホモ個体の作出、初期胚の発生能の検証、2細胞期胚でのトランスクリプトーム解析といった一連の表現型解析を行うためにはまだヘテロ欠損マウスの数が少なく、今後も時間を要することが予想される。この遅れは、並行して進めているCRISPRiによるlncRNAのスクリーニングにも影響している。そもそもsgRNAの設計を、ハブ領域のホモ欠損胚で発現が変動したlncRNAsに対して重点的に行うつもりでいたため、sgRNAsをコードしたレンチウイルスの設計にも遅れが生じている。
|
今後の研究の推進方策 |
ハブ領域のヘテロ欠損マウスを増やすことが現在最も重要な案件となっている。そこで、現在2匹いる雄マウスをから効率よく産仔を得るため、フォスターマザーの導入を考えている。 一方、lncRNAのスクリーニングについては、2021年にQuinodozらが発表した論文をもとに、核内に残留することが確認された642のlncRNAsについて設計を始める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、昨年度にハブ領域欠損胚の表現型解析を十分に進める予定であった。なかでも、2細胞期胚の割球を別々に採取し、ネステッドPCRによる遺伝子型解析とRNA-seq(RamDA-seq)によるトランスクリプトーム解析を併用することによって、選別したホモ欠損胚におけるZygotic genome activation(ZGA)への影響を検証する解析はシングルセルRNA-seqであることから、シークエンシング、解析を外部に委託する予定であった。産仔を思うように得ることができなかったことから表現型解析が進まなかったが、引き続きヘテロ欠損マウスを増やし、解析に足る数を確保次第、一連の表現型解析を進める。
|