研究課題/領域番号 |
23K05732
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡下 修己 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 助教 (10757933)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 性決定 / 鉄 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
鉄は種々の酸化還元酵素の活性に必須であり、個体発生に重要なDNA/ヒストンの脱メチル化も、活性中心に二価鉄(Fe2+)を持つ酵素によって触媒されている。 ほ乳類の性は胎児生殖腺に精巣決定因子Sryが発現するかで決定し、その発現により個体を雄へと誘導する。これまでに我々は、マウス胎児の性決定にDNA /ヒストンの脱メチル化が重要であることを明らかにしてきた。これらの脱メチル化を担うDNA脱メチル化酵素TET2やヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aによる酵素反応にもFe2+が必須である。加えて最近、性決定期の生殖腺で、細胞内への鉄の取り込みやFe2+の産生促進に関わる遺伝子群が高発現していることを見出した。この二つの事実を考え合わせ、『DNA /ヒストンの脱メチル化反応は、細胞内の鉄量で律速されている』という、新しい概念を想起するに至った。そこで本研究では、性決定期の生殖腺において、細胞内の鉄量変化がエピゲノム状態を変えることで性決定に影響するのか検証する。 今年度は、『性決定期の生殖腺において鉄量の変化が性決定に影響するのか』を明らかにするために、器官培養法により解析を行なった。鉄キレーターであるDfoを添加した培地でXY型生殖腺を培養したところ、Sryの発現低下に伴う雌型生殖腺への分化(性転換)が観察された。続いて、Dfo添加によるエピゲノム修飾への影響を調べたところ、多くのヒストン修飾が変化していた。一方で、性転換の原因となるSryの遺伝子座では抑制修飾であるH3K9me2の上昇が観察された。以上の結果から、Dfoによる鉄欠乏の誘導はSry遺伝子座のH3K9me2を上昇させ、Sryの発現誘導を阻害することで性転換が引き起こされていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度行う予定であった解析はすべて行うことができ、期待以上の結果も得ることができた。特にトラブルもなく順調に進行できたため、次年度に行う予定であった鉄代謝因子の欠損体の作製にも着手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
性決定期の生殖腺で高発現している細胞内鉄代謝に関わる遺伝子群の欠損体を作製し解析を行う。具体的には、CRISPR/Cas9システムを用いて各遺伝子をそれぞれ欠損したマウスを作製する。作製できたマウスは随時、性決定への影響を見ていくことで、細胞内鉄代謝が性決定に重要であるか明らかにする予定である。
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