研究課題/領域番号 |
23K05746
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中野 賢太郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50302815)
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研究分担者 |
松田 真弥 筑波大学, 生命環境系, 特任助教 (40805488)
森田 陸離 筑波大学, 計算科学研究センター, 研究員 (90896268)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | アクチン / リン酸化 / テトラヒメナ |
研究実績の概要 |
本研究は、繊毛虫テトラヒメナがアクチン重合阻害剤 LA によりアクチンが重合できなくなった状態を感知し、その状態を代償する仕組みを調べることで、今まで知られていなかった細胞内のアクチン細胞骨格の状態を監視し、細胞内のアクチン細胞骨格の機能を正常に保つ仕組みの解明を目指している。LA 耐性能獲得の過程でテトラヒメナはアクチン細胞骨格の主成分である ACT1 を分解し、普段はほとんど発現していない ACT2 を急激に発現する。ACT2 KO 株はLA耐性能を獲得できない。トランスクリプトーム解析により、LA 処理に伴い ACT2 と共に発現量が増加するアクチンフラグミンキナーゼ actin-fragmin kinase (AFK) の細胞機能を今年度は重点的に調べた。Tt AFK は、N 末端側にキナーゼドメインを有し、C 末端側に QN-rich配列を有する。Tt AFK 過剰発現株(eGFP-Tt AFK)を作製し、発現誘導後、LA 処理を施した。その結果、eGFP-Tt AFK 過剰発現細胞は、野生型と比較してLA耐性能の獲得が早まった。さらに、キナーゼドメインを欠失した eGFP-TtAFKC や QN-rich ドメインを欠失した eGFP-TtAFKN について調べた。その結果、eGFP-Tt AFKN 過剰発現は LA 耐性能の獲得を早めるのが分かった。一方、eGFP-Tt AFKC の過剰発現は野生型と比較して明瞭な差は認められなかった。また、Tt AFK のシャットオフ株を作製した。しかし、Tt AFK の発現の有無に関わらず細胞は LA 耐性能を獲得できた。テトラヒメナは Tt AFK が作用する経路とは別に、LA耐性能を獲得する経路を有するのかもしれない。今後、LA 処理細胞でアクチンがリン酸化されるか、それは Tt AFK によるか調べていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究室がある建物の大規模な改修工事があり、2023年9月から11月の3ヶ月間、遺伝子組換え実験を中止せざるを得ない状況にあったため。
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今後の研究の推進方策 |
細胞がアクチンを管理する仕組みを調べるため、LA 処理前後の細胞からアクチンを免疫沈降して共沈降物を調べる。また、Tt AFK によるアクチンのリン酸化の可能性を探る。推定リン酸化サイトについては、in silico 解析で目星はつけてある。そのサイトに変異を導入したアクチンを細胞に発現する実験を進める。研究の進捗状況を見定めつつ、Tt AFK の過剰発現や変異型アクチンの発現時に、ACT2 の発現量の変動を調べる。その結果を見ながら、トランスクリプトーム解析を検討する。 一方、LA 処理の伴うアクチンのタンパク質分解機構について、オートファジー経路とユビキチン経路を中心に調べる。前者については、ATG8 アイソフォーム5種の各シャットオフ株を利用し、LA 処理後のアクチンの細胞量や局在をコントロール株のものと比較する。後者については、プロテアソーム阻害剤を利用する。 さらに、LA 処理で発現量が増加する遺伝子群 (ACT2, Tt AFK 等) は、細胞の飢餓時にも転写誘導される。アクチン細胞骨格は食胞形成に必要なため、両者の間に有機的機能連携が伺える。動植物では、アクチンの動態変化は大量に ATP を消費するため、代謝に支障が起きるとアクチン細胞骨格の挙動を積極的に制御する事例が複数報告されているが、その詳細は不明である。そこで、細胞のエネルギー代謝の中心にある TOR シグナルについてテトラヒメナで解析し、上述した現象との関係を探る。そのためにラパマイシン処理を利用する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室が入っている建物の大規模改修工事があり、9月から11月の3ヶ月間、ほぼ実験活動ができない状況になった事により、当初予定していたよりも試薬や実験器具などの物品を購入しなかったため。次年度に繰り越した使用額については、翌年度分として請求した助成金と合わせて、進捗が遅れている実験計画を進めるために必要な物品費等に使用して研究の推進を図る計画である。
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