研究実績の概要 |
細胞膜リン脂質のうち、ホスファチジルセリンは細胞膜内装に限局している。ホスファチジルセリンは、生細胞の様々な局面において、一過的に露出され、その後、再度内層に濃縮される。この過程に,細胞膜フリッパーゼであるATP11A,11Cが関与している。さらに,申請者は,エンドソームに存在するフリッパーゼであるATP8A1,11Bも,細胞膜ホスファチジルセリンの非対称性の再構築に貢献していることを見出した。マウスT細胞株でATP8A1, 11A, 11B, 11Cの四重欠損細胞を作成し,カルシウムイオノフォアを用いて,一過的にPtdSerを露出させると,数時間もの間,全くホスファチジルセリンが内層へ移層されなかった。この四重欠損細胞に細胞膜フリッパーゼであるATP11A, 11Cを発現させると,露出したホスファチジルセリンは37℃においても15℃においても5分以内に速やかに内層へ移層され,非対称分布が再構築された。一方,エンドソームに局在するATP8A1, 11Bを発現させた時は,露出したPtdSerは15℃では内層に戻らず,37℃において60分ほどの時間をかけて非対称分布が構築された。この再構築活性は,ダイナミンの阻害剤でも抑制されたことから,ATP8A1とATP11Bはエンドサイトーシスなどの膜輸送を介して細胞膜ホスファチジルセリンの非対称性を再構築することが分かった。多くの細胞では,エンドソームと細胞膜のフリッパーゼを併せ持つことから,細胞膜PtdSerの非対称分布の構築には,二つの独立したシステムで維持されていることが示唆された。しかし、この四重欠損細胞においても、定常状態ではホスファチジルセリンを細胞膜内層に保持し、細胞膜の非対称性を樹立していた。つまり、申請者らが解明したメカニズムとは異なるメカニズムの存在が示唆された。
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