研究課題/領域番号 |
23K05798
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
川口 茜 国立遺伝学研究所, ゲノム・進化研究系, 助教 (10749013)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | クロマチン高次構造 / Hi-C / 脊椎動物の種間比較 / エピジェネティック制御 |
研究実績の概要 |
本研究は、ゲノム配列情報からは読み取ることのできない転写の上位制御、すなわちエピゲノム、DNA-loop、そして転写単位(TADs)といったクロマチン制御機構を種横断的に比較解析し、それらが脊椎動物種間のどのレベルの発生的拘束を生み出す要因として作用するのかという問いに迫る課題である。初年度は、どの発生遺伝子周辺のTADが保存されているのかについて、研究をおこなった。これを明らかにするため、軟骨魚類イヌザメ、大型哺乳類であるアフリカゾウ、鳥類のモデルであるニワトリのHi-Cライブラリを独自に作成、ゲノム相互作用について解析を行なった。特に解析が最も進んでいるイヌザメについては、他研究者(工樂樹洋教授)と協調してHi-C genome assemblyも実施、染色体スケールでの高品質なゲノム情報の整備にも貢献した。Hi-Cデータをもとにしたクロマチン相互作用の解析の結果、イヌザメと他の脊椎動物の間では、TADs構造に高い保存性が見出されつつある。イヌザメはゲノムサイズが4.6Gb前後、かつ進化速度が緩やかである。進化的にも重要でなゲノムの特性を有するサメが示すTAD構造の保存性は、脊椎動物のゲノム進化を考える上でも興味深い。引き続き、イヌザメのエピゲノム・クロマチン動態について解析を進めている。アフリカゾウとニワトリのHi-C解析については現在進行中である。 さらに、がん細胞におけるクロマチン制御機構を明らかにするため、腫瘍性変異型RASで形質転換されたマウス細胞 (CIRAS-3細胞) と非形質転換細胞 (10T1/2細胞)を用い、クロマチン相互作用解析に貢献した。その結果、CIRAS-3細胞ではヘテロクロマチンに富む「Bコンパートメント」と呼ばれる領域同士の相互作用が増加していることが示された(Otsuka A., et al., Chromosoma (2024))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度報告書提出までの間に、当初予定をしていなかったニワトリのPGC細胞でのHi-Cデータの取得を加え、7種のHi-Cライブラリの調整をおこなった。2年目は5種の脊椎動物のHi-Cデータの取得を目指す。また、解析手法の最適化を引き続き実施する。これによってさらに複数種の脊椎動物のゲノム解析に適した基盤を整備する。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、脊椎動物種間で高度な保存性を示すTADs、または脊椎動物と原索動物間で保存性を示さない流動的なクロマチン構造の領域を同定を進める。2年目は、申請当初の目標であった頭索動物(ナメクジウオ)を含め、さらに5種の脊椎動物のHi-Cデータの取得を目指す。また、解析手法の最適化を引き続き実施することで、さらに複数種の脊椎動物のゲノム解析に適した基盤を整備する。加えて、Hi-Cを応用発展させた新たなHi-Cシークエンス技術開発、およびゲノムDNA配列決定技術の開発にも取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度に実施した次世代シークエンスの配列解析(外注)は、提携する解析会社の次世代シークエンス読み取り機器の新実装に合わせて格安で配列解析を委託することができた。しかしながら、令和6年度に実施するHi-Cデータの配列読み取りについては通常の費用が必要となることが予想される。令和6年度は3回の成果報告をおこなう予定である。令和7年に追加で取得する次世代シークエンス配列解析については、令和6年の状況を鑑みながら決定することとなるが、現在の予定では令和6年に必要な情報は確保する予定である。上記の結果から令和5年度においては、請求した直接経費160万円のうち、160万円を令和6年度に繰り越しをすることが可能となった。そのため、当初予定していた令和6年度請求予定であった130万円のうち、請求金額を30万円に変更した。令和7年度には、ここまでの成果をまとめて学術論文として投稿を予定している。そのため、論文投稿の諸費用を想定しているが、投稿費用の上昇と円安が続くことが予想されるため、令和6年に計上しなかった100万円を、令和7年度分として後ろ倒しで計上する。
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