研究課題/領域番号 |
23K05818
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
深澤 壽太郎 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 助教 (90385550)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ジベレリン / DELLA / 転写制御 / 信号伝達 |
研究実績の概要 |
移動できない植物にとって、成長とストレス応答はトレードオフの関係にある。GA信号伝達因子であるDELLAは、植物において主要な成長抑制因子として機能し、GA依存的に分解される。これまでに、DELLAには、2つの作用モデルが報告されている。1つは、DELLAの結合による標的タンパク質(PIF等)の機能阻害モデル。もう1つは、申請者が見出した、転写因子GAF1/IDDと複合体を形成し、転写を活性化するコアクチベーターモデルである。これまでにGA依存的にDELLAが分解されるとGAF1複合体は、転写活性化複合体から転写抑制複合体へと変化し標的遺伝子の発現のON/OFFを制御することを示した。GAF1の標的遺伝子としてGA生合成遺伝子、花成抑制遺伝子を同定し、この制御システムが、GAフィードバック制御や、GA花成経路を制御することを明らかにした。一方で、ストレスが如何にしてDELLAを蓄積させるのか?DELLAの蓄積がどのようにして植物の成長を抑制するのかは不明である。植物の発芽、伸長、開花等はDELLA蓄積により、抑制されるが、DELLAと結合しない変異型GAF1の発現により回復した。GAF1標的遺伝子のなかに、未知の成長抑制遺伝子が存在すると考え、これらの遺伝子を同定し、DELLAによる成長制御機構の解明に挑戦する。本年度は、食害ストレス時に、植物はジャスモン酸(JA)を合成することが知られているが、JA処理時には、DELLAが蓄積することをを見出し、JA処理によるGA内生量が低下が主要な原因であることを明らかにした。さらに、JAによるGA生合成、代謝遺伝子の発現変動に着目しJAによるGA内生量の制御の分子機構について解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
JA処理後の植物では、GA信号伝達の抑制因子DELLAが蓄積するが、この蓄積はGAの投与によりDELLAが分解されることからJA処理によるGA内生量の低下がDELLA蓄積の主要な原因であると考えられた。実際にJA処理後の植物では、活性型GA量が減少することを明らかとした。さらに、JAによるGA内生量制御を明らかにするため、GA生合成遺伝子、GA代謝遺伝子を調べた結果、代謝酵素遺伝子であるGA2ox遺伝子の発現量が増加することを明らかにした。JA信号伝達においてMYC2がマスター転写因子として機能する。myc2myc3myc4変異体では、JA処理によるGA2oxの発現量の増加は消失した。MYC2は、GA2oxの転写を直接制御することを明らかにした。一方で、JA処理後の植物ではGA内生量が低下するにもかかわらず、GA3ox1のフィードバック制御による増加が認められなくなった。本研究において、GA3ox1を標的とする新奇miRNA5998を見出した。miR5998は、MYC2依存的に誘導されることを明らかにし、miRNA5998がGA3ox1のmRNAの分解を促進することを明らかとした。新奇miRNAの発見は、新たな発見であり、これらの研究成果は、Plant physiology誌に掲載され、研究は計画以上進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
食害ストレス等により、ジャスモン酸量が増加すると、MYC2が活性化され、GA代謝酵素遺伝子GA2oxの転写を促進され、GA内生量が低下する。従来、GA内生量の低下にともない、GAフィードバック制御によるGA生合成遺伝子GA3ox1の転写が促進されるが、JAは、GA3ox1のmRNAを標的とするmiRNA5998の転写を促進することで、GAの代謝ばかりでなくGAフィードバック制御も抑制することで、効率的にGA量を低下させ、成長抑制因子であるDELLAを蓄積させることが明らかとなった。しかしながら、なぜDELLAが蓄積すると植物の成長が抑制されるのかはまだ明らかとなっていない。申請者らは、DELLAがコアクチベーターとして機能し、DELLA蓄積時には、DELLA-GAF1複合体が形成され標的遺伝子の転写が促進されることを明らかにしている。GAF1標的遺伝子の中には、成長抑制遺伝子が存在すると考えられた。今後、この成長抑制遺伝子の同定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、おおむね予定通りの予算を使用したため、僅かな次年度使用額が生じた。次年度は、分子生物学的な解析も増える予定であるので越し額を消耗品の購入に使用する予定である。
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