研究課題/領域番号 |
23K05825
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
石川 雅樹 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 助教 (00586894)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ヒメツリガネゴケ / 幹細胞 / リプログラミング / 傷害刺激 / マップキナーゼ |
研究実績の概要 |
陸上植物は、傷害刺激に応答して分化細胞をリプログラミングし、新しい器官や個体を再生させる。リプログラミングを制御する転写因子やクロマチン修飾因子が同定され、分化細胞の細胞運命を変化させる遺伝子制御ネットワークの理解が進んでいる。一方、植物はどのように傷害刺激を感知し、その情報を核へ伝達して細胞運命転換を誘導させ器官・個体再生に繋げるのか、その情報伝達機構は明らかになっていない。そこで本研究では、コケ植物ヒメツリガネゴケの傷害誘導性細胞リプログラミングの実験系を使って、その情報伝達機構を明らかにすることを目的としている。本年度では以下の実験を行った。 (1)ヒメツリガネゴケの葉は、切断するだけで切断面に接した葉細胞がリプログラミングし幹細胞へと変化する。これまでの研究結果に基づいて、細胞が傷つくことで放出される物質Aが傷害刺激分子として機能し、隣接している無傷の細胞をリプログラミングさせるという仮説を立てた。そこで、ヒメツリガネゴケの切断葉に物質Aを添加し、幹細胞化誘導因子STEMINの遺伝子発現を調べたところ、顕著な影響は見られなかった。 (2)物質Aは、情報伝達系で機能するマップキナーゼ(MAPK)の一つを活性化させることが分かっている。そこで、MAPKをコードする遺伝子を破壊し、その表現型について調べたところ、細胞リプログラミングが遅れる傾向にあることが分かった。そこで、物質Aに加えて他の傷害刺激因子が細胞リプログラミングに必要ではないかと考えるに至った。 (3)シロイヌナズナでメカニカルセンサーとしている受容体が細胞リプログラミングに機能していることが示唆された。そこで、ヒメツリガネゴケにおいてもメカニカルセンサーが物質Aに加えて細胞リプログラミングに関わっているのではないかと考え、その遺伝子破壊株の作製を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
物質Aによって活性化されるMAPKが細胞リプログラミングに必要であることが示唆されたため、傷害刺激の情報伝達系を解明する糸口が得られたと考えている。また、メカニカルセンサーとして機能することが見込まれる受容体の破壊株の作製を開始し、次年度始めには、その形質転換体が得られる見込みであるため、次年度中に表現型を解析できるとともに、物質Aとの関係についても調べることができるため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果、および、当初の研究計画に基づいて、以下の実験を遂行する。 ・切断葉に物質Aのアンタゴニストを加えて、細胞リプログラミングの影響を調べる。また、活性型MAPKをヒメツリガネゴケに導入した形質転換体を作製し、物質Aのアンタゴニスト存在下での細胞リプログラミングの進行状況を解析する。その後、これらのラインを用いてRNA-seq解析を行い、MAPKが細胞リプログラミングのどの過程を制御しているのか推察する。 ・今年度から作製しているメカニカルセンサーの遺伝子破壊株を確立し、表現型解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由)今年度は、研究を遂行するための機材や試薬などが使える環境にあった。また、次年度に多数の形質転換体を作製する予定であり、そのための経費がかかることが予想されたため、今年度の支出を抑制することで次年度使用額が生じた。 (使用計画)形質転換体の作製および維持管理のための技術支援員の雇用経費および試薬代として使用する。
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