研究課題/領域番号 |
23K05829
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
久保 智広 山梨大学, 大学院総合研究部, 講師 (70778745)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 繊毛 / クラミドモナス / 鞭毛内輸送系 / 蛋白質合成系 / ピューロマイシン |
研究実績の概要 |
真核生物の鞭毛(繊毛と同義)は水流形成、細胞外からのシグナル受容に重要な細胞小器官である。鞭毛構築についての主流な考えは「鞭毛は蛋白質の合成ができないので、鞭毛の構成蛋白質は全て細胞体から運ばれる」というものである。しかし、私たちは最近、クラミドモナスという2本の鞭毛を持つ単細胞緑藻類を用い、精製した鞭毛がそれだけで蛋白質合成能を持つ直接的な証拠を得た。本研究は、鞭毛内に蛋白質合成系が存在することを確認し、その分子機構を解明することを目的としていた。主な研究実績は以下の通りである。①リボソーマル蛋白質RPL4の一部を欠損した変異株rpl4の単離同定に成功した。一般的に、リボソーム蛋白質を欠損すると変異株は致死になるので、ヌル変異株は単離することは難しいと考えられる。その点、rpl4はRPL4のトランケートな蛋白質を発現しRPL4の機能を一部発現しているため、生存可能である。②rpl4の単離鞭毛は野生株と比較して顕著に蛋白質合成能が低下していることが分かった。これは鞭毛内でのリボソームによる蛋白質合成を示す間接的な証拠である。③RPL4-3xHAタグ付き発現株を作製し、RPL4の局在を観察した。これらの研究結果は、鞭毛内に蛋白質合成系が存在することを確認した。従来の「鞭毛内輸送系のみで鞭毛の構築と維持が行われる」という定説に疑問を投げかけ、鞭毛研究分野に新たな視点をもたらすものである。今後、鞭毛内でのリボソーム複合体の分子同定など、さらなる進展が期待される。上記の内容を含めた成果を細胞生物学会および繊毛研究会において発表し、好評を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究は、当初の計画に沿って「おおむね順調に進展している」と判断した。その理由は以下の通りである。①リボソーマル蛋白質RPL4の欠損変異株rpl4の単離同定に成功したこと。リボソーマル蛋白質を欠損した変異株は一般的には致死になることが多い。本研究で同定されたrpl4はRPL4のトランケートな蛋白質を発現するものの、RPL4の機能が抑制されている。そのため、リボソーム複合体の繊毛内における働きを詳しく調べることが可能となった。②rpl4鞭毛における蛋白質合成能の低下を確認できたこと。以前、クラミドモナスで確立したピューロマイシンによる蛋白質合成の検出方法を用いて、rpl4鞭毛の蛋白質合成能を調べたところ、野生株鞭毛と比較して有意に低下していることが分かった。このことは、鞭毛内で観察されたピューロマイシン蛋白質の合成が確かにリボソームに依存していることを示す。③RPL4の局在を観察するための発現株を作製できたこと。ゲノム編集を用いて、RPL4をコードしている遺伝子を一部改変することによって、RPL4のC末に3xHAタグを付加することに成功した。このため、RPL4-3xHAの局在観察が可能となった。現在、繊毛内におけるRPL4-3xHAの局在観察を詳しく進めている最中である。以上のように、当初の計画に沿って重要な成果が得られ、新たな知見と今後の研究展開への布石が整ったこと、複数の学会で成果発表したことから、この研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として次の4点を考えている。①rpl4株の表現型解析。引き続きrpl4株を用いた解析を行う予定である。具体的には、細胞体全体の蛋白質合成能、鞭毛再生速度、野生株との鞭毛構成蛋白質の組成、などを調べる予定である。②RPL4-3xHA株を用いた生化学的な解析。引き続きRPL4-3xHAを用いて、繊毛内におけるRPL4の局在を詳細に調べる。また、繊毛内におけるリボソーム複合体を調べるために、単離鞭毛を用いた免疫沈降を行い、構成蛋白質を同定する。③繊毛内mRNAのRNAseqの実施。これまでの予備実験によって単離繊毛からRNAが抽出できること、またそのRNAを用いてRNAseqが出来ることが分かった。細胞体からのRNAの混入を防ぐことが課題であるが、今後は、繊毛からの抽出RNAを用いて、RNAseqを複数回実施する予定である。③その他のリボソーマル蛋白質欠損株の作製・探索。rpl4株と同じように、リボソーマル蛋白質に異常を持つ変異株を探索する予定である。リボソーマル蛋白質を欠損した変異株は一般的には致死になることが多いため、null変異株の単離は難しいと考えられる。そのため、点変異を持つ蛋白質やトランケートな蛋白質を発現する株を作製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は次の二点である。①物品費および旅費を節約できたため。②当初計画していたRNAseqの実験が思うように進展しなかったため。今年度、RNAseqの実験は遂行予定であるため、その費用に充てる予定である。
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