研究課題/領域番号 |
23K05857
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
塚本 大輔 北里大学, 理学部, 助教 (50598836)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 冬眠 / 遺伝子発現制御 / RNA結合タンパク質 / 肝臓 / 体温変動 / シマリス / 非モデル生物 / トランスクリプトーム |
研究実績の概要 |
【研究の背景と目的】 シマリスの体温は、非冬眠期では覚醒時は約38°C、休息時は約36°Cであるが、冬眠期は約6°Cにまで低下する約6日間の深冬眠と、数時間で約37°Cにまで上昇する約1日の中途覚醒を繰り返している。冬眠動物の低温耐性能は細胞レベルで生得的に備えている能力と、冬眠期に向けて発揮される時期特異的な能力の両方により成り立っていると考えられているが、分子メカニズムはほとんど未解明である。本研究の目的は、なぜシマリスの組織は、低代謝・低体温に適応できるのか?を解明することである。本研究ではまず、深冬眠時に末梢時計が停止しているなら、体温低下時にはどのように遺伝子発現と末梢時計が制御を受けるのかを明らかにする。 【研究実績】 多くの冬眠哺乳動物の冬眠期に低温ショック RNA 結合タンパク質 Rbm3 の遺伝子が高発現していることが報告され、マウスにおいては Rbm3 が概日時計遺伝子 Per2 などを制御していることも報告されている。今年度は、Rbm3 遺伝子は、非冬眠期から冬眠期への著しい体温低下に伴い転写が活性化され、mRNA の安定性が高まっている可能性を考え、Rbm3 タンパク質の Rbm3 mRNA への結合について解析可能な、肝臓を用いた RIP-qPCR の系を立ち上げた。同様に、RIP-seq を委託できるレベルでの RNA 回収量も検討したことで、網羅的にも解析できる足がかりができた。一方、体温低下中の深冬眠移行時と体温上昇途中の中途覚醒移行時のシマリスをサンプリングするための、体温をリアルタイムで測定可能なテレメトリーシステムは、当初予定したものでは6℃程度の体温が測定できないことがわかり、現在別の機器を急いで確認しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シマリスの肝臓を用いて標的RNAが未知のRNA結合タンパク質の免疫沈降を行うことは想定よりも苦労はしたが、研究の進展に大きな問題が生じているわけではない。また、今年もシマリスの入手は安定したため、非モデル生物を用いた研究であるが、サンプルの確保は順調である。唯一、テレメトリーシステムを用いてシマリスの体温変動をリアルタイムで測定し、冬眠期の適切な体温変動時にサンプリングを行う計画が、シマリスに適合するテレメトリーシステム機械が見つけられていない点が当初の計画と異なる状況になってしまった。今はテレメトリーシステムの代替策として、赤外線センサーシステムにより冬眠期の活動をリアルタイムでモニタリングすることで対応している。
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今後の研究の推進方策 |
なぜシマリスの組織は、低代謝・低体温に適応できるのか?を解明するため、以下の研究を引き続き行う。 【I】Rbm3 タンパク質の Rbm3 mRNA および時計遺伝子 mRNA への結合と発現量に与える影響を、肝臓を用いた RIP-qPCR と レポータープラスミドを用いた培養細胞系で明らかにする。 【II】シマリス肝臓トランスクリプトーム解析を、非冬眠期の活動時と休息時および冬眠期の深冬眠時と中途覚醒時、そして体温低下中の深冬眠移行時と体温上昇途中の中途覚醒移行時で行う。 【III】シマリス肝臓を用いて、Rbm3 抗体を用いた RIP-seq 解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
テレメトリーシステムの購入ができなかったため次年度使用額として大きく生じた。その他の請求金に関しては、全ての物品の値上がりにより少し想定以上の使用額が生じたが、おおむね計画通りであると考えている。
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