研究実績の概要 |
本研究は自然選択・人為選択等の適応の対象となった候補領域を効率よく検出する方法を提示することを目的としたものである。初年度は新たな研究方法の開発に先立ち、既存の適応進化の検出法によって検出され得る適応領域の性質についての研究を進めた。これは既存の方法では真に発生した適応の一部しか検出されていないこと、さらに特定の性質を持つ適応に限って検出されていることを量的に示すことが目的である。 現在使われている方法は、統計的な検定として実装されており、帰無仮説、すなわち中立状態を棄却すれば適応と判断する。当然ながら偽陰性も存在するため、どのような条件下で検出されているのかを明示的にすることは意味がある。中立状態を棄却する要因は複数存在している。そのためたとえ棄却したとしても、検出領域ごとにその性質は異なるかもしれない。これらの問題意識の下、適応が発生した時間と選択の強さに注目し、パラメータごとに検出効率を算出した。その結果、最近の適応であれば非常に有利でなければ検出できず、逆に古い適応であれば弱い適応でなければ検出できないという性質の違いを明らかにした。さらにこれらシミュレーションから得られて検出効率を用いることで、逆に、真に発生した適応進化を推定することが可能であることも示した。これらの研究結果は論文化して既に掲載されている(Tanaka et al., Power of neutrality tests for detecting natural selection, G3, jkad161, 2023)。また研究成果を日本遺伝学会(熊本)のワークショップで講演し、日本進化学会(沖縄)ではポスター発表を行った。
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