研究課題/領域番号 |
23K05889
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡本 卓 京都大学, 理学研究科, 助教 (80554815)
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研究分担者 |
栗山 武夫 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 准教授 (70573145)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 爬虫類の皮膚色彩 / 再生尾 / 遺伝子発現解析 / 捕食・被食関係 / 系統比較法 |
研究実績の概要 |
本課題は,伊豆諸島・伊豆半島に固有分布するオカダトカゲ(爬虫綱トカゲ科トカゲ属)にみられる幼体の尾の色彩の地理的変異が,島嶼ごとに異なる捕食動物相への適応の結果であるという仮説の検証を目的とし,1) オカダトカゲ島嶼集団を対象とする野外実験による尾の色彩の生態的効果の検証,2) オカダトカゲ島嶼集団間の系統関係の解明,3) 捕食動物相の異なるオカダトカゲ島嶼集団および本州に分布する近縁種ニホントカゲ・ヒガシニホントカゲを対象に,再生尾の皮膚組織における遺伝子発現を比較することで,尾の色彩変異に関わる遺伝的基盤の解明を行う. 1) については,野外実験に使用するトカゲモデルを,3Dプリンタにより試作し,色彩の検討などを進めた. 2) については,GRAS-Di法を用いて取得したゲノムワイドSNPデータに基づき,オカダトカゲ島嶼集団間の系統関係の推定を行った.そして,これまでに明らかになっている表現形質と島嶼ごとの捕食者構成の関連についての系統比較法に基づく解析を行い,論文化の準備を進めている.これに加え,島嶼間の二次的な遺伝的交流による網状進化を考慮したシナリオの検討を,現在進めている. 3) においては,オカダトカゲとその近縁種に飼育下で再生尾を形成させ,地域集団・成長段階・性によって色彩の異なる尾における,色彩形成途中の尾を対象としたトランスクリプトーム解析を行う.これについて,色彩データの集積方法について分担者と検討のうえ飼育方法の検討を行い,ある程度狙い通りの色彩の再生尾を得られることを確認し,大型個体の飼育について軌道に乗せた.また,色彩型の異なるいくつかの個体からのRNA抽出を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3) について,尾の色彩に関わる遺伝的基盤の解明において必要となる飼育下で再生尾を形成させる工程における試行錯誤に,時間を要した.当初,各個体から4~5回程度の異なる段階の再生尾の採取を見込んでいたが,実際には1~2回再生した後の飼育では再生尾の形成が停止したり著しく遅れたりする現象が生じた.これに対処するため,飼育環境についての試行錯誤したものの,採取できたサンプルの数・種類は不十分なものとなった.その結果,遺伝子発現解析に必要なRNA抽出が,予定していたより遅れることとなった.
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今後の研究の推進方策 |
1) の系統解析については,隣接島嶼集団間の遺伝的組成を精査し,網状進化の可能性のある箇所についてABC(近似ベイズ計算)に基づく検証を行う.また,網状進化を考慮した系統比較法による解析手法の検討を行う. 2) の野外実験については,今後伊豆諸島の調査を行い,昨年度検討したトカゲモデルを用いた野外実験を確立し,データ集積を行うとともに,遺伝子発現解析に必要なサンプルの収集を行う. 予定より最も遅れている 3) の尾の色彩に関わる遺伝的基盤の解明については,2023年度の飼育における再生尾形成過程の記録に基づいて,各個体における再生尾形成が1~2巡程度で十分な数・種類のサンプルを採取できるよう多数の個体を同時並行で飼育する.これをもとにRNAの抽出と解析を進め,ある程度のデータが揃った段階でバイオインフォマティクス解析手法の検討を行い,異なる色彩型を生じさせる遺伝的基盤の解明に取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度中に行った実験のうち,飼育実験ついてはほぼ全面的に,分子生物学実験についてもある程度の部分について,研究室内の既存の試薬,設備を使って遂行した結果で,物品の新規購入費用が低く抑えられた.また,飼育下における再生尾形成に基づくRNA抽出が,当初の見込みより遅れたことに加え,RNAシーケンシングの受託解析の順番待ちが生じて2024年度に持ち越すこととなった. 2024年度は,2023年度中にRNA抽出したサンプルと今年度抽出するサンプルについてシーケンシング解析を発注するとともに,野外調査の旅費として使用する.
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