本研究は、強いボトルネックを経験したと考えられているニホンザルの屋久島集団を例にとり、集団の隔離と縮小がゲノムと形態にどのような影響を及ぼすのかを理解することを目的とする。2023年度は、屋久島集団の比較対象として、青森県下北半島と大分県高崎山のニホンザル計4サンプルを全ゲノムリシーケンスに供した。これまでに得られていた屋久島とその他の集団のシーケンスデータと合わせて、クオリティのコントロール、参照ゲノム配列へのマッピング、多型の探索を行なった。結果、被覆率30以上の良好なデータが得られ、集団遺伝学的解析に向けた準備を整えることができた。屋久島集団を含む日本各地のニホンザル332個体のCTデータから、頭蓋と下顎のサーフェスモデルを生成した。得られたサーフェスモデルを元に、計測誤差を評価するために各標本から2回ずつ標識点データを取得した。また、関連する研究として、ニホンザルと外来種タイワンザルの交雑群を対象に、交雑が頭骨の出生後の個体発生アロメトリーに与える影響を評価した。交雑によって、頭蓋と下顎の形態の個体発生アロメトリーはほぼ相加的に推移することが示された。個体発生アロメトリーの方向にわずかな変化が認められたが、形態の差異や超越分離の程度は個体発生過程を通じてほとんど変わらなかった。一方、上顎洞の個体発生アロメトリーは非相加的な様相を示した。これらの結果をもとに交雑による形態多様化の遺伝的・発生的要因について考察し、学術誌Evolutionに論文を発表した。
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