研究課題/領域番号 |
23K05947
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
今村 公紀 京都大学, ヒト行動進化研究センター, 助教 (80567743)
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研究分担者 |
鈴木 俊介 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (30431951)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 霊長類 / 神経発生 |
研究実績の概要 |
同じヒト科であっても、ヒトは遺伝的多様性が小さく類人猿は遺伝的多様性が大きい。そこで初年度は、ヘテロクロニーの種間比較解析の細胞基盤として、類人猿iPS細胞株のバリエーション増に取り組んだ。チンパンジーに関しては、以前にプラスミドで作製・解析した亜種背景の異なるチンパンジー3個体(ニシチンパンジー、ヒガシチンパンジー、ニシチンパンジー/チュウオウチンパンジー/ヒガシチンパンジーの亜種間雑種)の皮膚細胞由来iPS細胞5株に加え、新たに別の2個体のチンパンジー(ニシチンパンジー)と前回と同じ1個体(ニシチンパンジー/チュウオウチンパンジー/ヒガシチンパンジーの亜種間雑種)の皮膚および血液細胞からセンダイウイルスでiPS細胞を作製した。得られたiPS細胞のうち5株について性状解析を行った後、ダイレクトニューロスフェア形成による初期神経発生誘導における遺伝子発現をヒト/チンパンジーで比較したところ、分担者が同定した新規ノンコーディングRNAのHSTR1の発現がヒトでは神経分化が進むにつれて発現上昇する一方、チンパンジーでは亜種・株の違いに関わらず発現が認められないことを明らかにした。 チンパンジーと同じくヒトに最も近縁な霊長類に、ボノボがいる。ヒト、チンパンジー、ボノボの3種間では、各2種で共通し1種だけが異なるゲノムや表現型が存在する。そのため、ヒト/チンパンジーの比較では、ヒトとボノボで共通しチンパンジーのみが異なる分子・細胞特性と、ヒトだけで異なる特性の区別ができない。従って、ヒト発生進化の解明にはヒト、チンパンジー、ボノボの3種間での種間比較解析が重要であり、2個体のボノボの血液細胞からSRVベクターにて9株のiPS細胞を作製し、ダイレクトニューロスフェア形成を行った。現在、ヘテロクロニーの起点となるiPS細胞のトランスクリプトームについて、3種間で比較解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘテロクロニーの解析する前提として、類人猿の遺伝的多様性およびiPS細胞のclonalを考慮したiPS細胞パネルの整備が必須条件となる。この課題に対し、申請者が以前に作製したチンパンジー5株(3亜種・3個体、線維芽細胞由来、プラスミド使用)に加えて、新たに作製した5株(3亜種・3個体、線維芽細胞または血液細胞由来、センダイウイルス使用)と1株(1亜種・1個体、血液細胞由来、SRV使用)について、ダイレクトニューロスフェア形成による初期神経発生誘導の適合性を確認した。これら新規のiPS細胞株のうち、センダイウイルスで作製したものに関しては、ノンコーディングRNAのHSTR1の発現がヒトとチンパンジーで異なる知見も併せて論文として発表することができた(Imamura et al., In Vitro Cellular & Developmental Biology - Animal, 2024)。また、最も近縁なヒト、チンパンジー、ボノボの3種間比較解析においても、10年前に海外2グループから2株ずつしか作製されていなかったボノボのiPS細胞を9株作製することに成功し、まずは分化誘導前のiPS細胞におけるトランスクリプトーム解析をヒト15株、チンパンジー12株、ボノボ6株で実施した。その結果、パン属(チンパンジー、ボノボ)とヒトを区別する遺伝子発現に加えて、少ないながらもチンパンジーとボノボを区別する遺伝子発現も特定しており、論文発表に向けて準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に新たに作製したチンパンジーとボノボのiPS細胞株について、ヒトを含めた3種間でのトランスクリプトームの比較解析結果を精査し、ホモ属とパン属、およびパン属のチンパンジーとボノボを区分する遺伝子発現特性を見出す。それらの知見を参照しつつ、各霊長類種のiPS細胞の初期神経発生誘導と遺伝子発現・エピゲノム解析を行い、ヒト進化に伴う遺伝子発現と制御システムの特徴、さらには細胞特性の違いの特定に取り組む。特に細胞特性の違いに関しては、iPS細胞から分化誘導した神経幹細胞を対象とした解析に着手することで、具体的な種特有の細胞生理と脳神経発生進化に関する示唆を得る。また、初年度にはヒトに最も近縁な大型類人猿(チンパンジー、ボノボ)を中心にiPS細胞作製と分化誘導、トランスクリプトーム解析を実施してきたが、次年度は反対に類人猿で系統進化的に最も初期に分岐した(ヒトとは最も遠縁の)小型類人猿(テナガザル)についても、iPS細胞の作製・特性解析と分化誘導を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に所属機関の異動が決まっていため、異動先での研究セットアップ費用として次年度使用額の捻出を考慮した。
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