研究課題/領域番号 |
23K05950
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊原 さよ子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (80292788)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 嗅覚受容体 / 遺伝子多型 |
研究実績の概要 |
香りはヒトに様々な知覚、生理・心理効果をもたらすが、その作用には個人差がある。一部の単一香料においては、知覚の個人差が特定の嗅覚受容体(OR)遺伝子多型の違いに起因することが示されているが、複合臭での個人差の遺伝的要因についてはほとんど知見がない。本研究では、申請者らが特定のOR遺伝子多型と匂い知覚との相関を見出している精油の例をモデルケースとし、複合臭による知覚、生理・心理効果の個人差におけるOR遺伝子多型の寄与を明らかにし、OR活性の制御を通じた個人差解消の可能性を追求することを目的とする。 本年度は着目している精油匂い知覚の遺伝子多型による個人差が、精油を構成する特定の成分に起因するのか、総体に起因するのかを明らかにすることを試みた。まず、着目している精油の構成成分の分析を行った。ガスクロマトグラフ質量分析の結果得られた主要香気成分10種について、培養細胞を用いた着目ORの応答解析を行った結果、特定の匂い物質においてのみ応答が検出された。また、この応答は着目ORの遺伝子多型に依存し、参照型配列では応答するのに対し、変異導入型配列においては全く応答がみられなかった。さらにこの匂い物質に対する匂い知覚と着目OR遺伝子遺伝型との関係を官能評価により調査した結果、参照配列を有する人ほど、匂いの知覚強度が大きい傾向が得られた。この結果は、精油において得られていた匂い知覚と遺伝子多型との関係を矛盾なく説明するものであった。以上より、本研究で着目している精油匂い知覚の遺伝子多型による個人差は、特定の成分に起因する可能性が高いと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた、複合臭構成成分の分析および、受容体応答活性を確認することができたため
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、精油の構成成分中、嗅覚受容体遺伝子多型を通じて知覚の個人差を生み出す可能性のある化合物を特定した。そこで、今後は、この化合物によるOR応答を阻害することで、精油への知覚に変化が生じるかどうかについて、検証を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初初年度に計画していた官能評価の大部分を、今後予定している抑制剤探索の後に、抑制剤の効果とあわせて実施することにしたため、その経費は次年度以降に繰り越すこととした。次年度以降に官能評価を実施する際に使用する。
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