研究課題/領域番号 |
23K05993
|
研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
添田 義行 学習院大学, 理学部, 助教 (10553836)
|
研究分担者 |
坂内 博子 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40332340)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | タウタンパク質 / 液-液相分離 / 光遺伝学 / 凝集 / リン酸化 |
研究実績の概要 |
神経変性型認知症の原因タンパク質のひとつである「タウ」は、本来は水溶性であるが凝集状態に相転移すると細胞内外に影響を及ぼし、認知症の病態形成に寄与する。これまでの知見から、細胞内の凝集体が治療効果を発揮し得る標的と考えられており、解析が進められてきたが、凝集体が毒性を獲得する最初期の機序は解明されていない。本研究では、これまでに確立した光遺伝学的手法を利用し、細胞内で生じるタウの相転移が病態形成に果たす役割の解明を目的とする。 令和5年度は、最初期に起こるタウ性質の変化を調べるため、タウ相転移の機序および相転移時のタウの性質を解析した。光遺伝学手法で検討できるように、青色光感受性ホモオリゴマー形成ツールCRY2oligと融合したTau(OptoTau)は、タウオリゴマーを形成することがこれまでの研究で示されている。令和5年度の実験では、その構造の解析や1,6-ヘキサンジオールの処置実験から、OptoTauは液-液相分離で生じる液滴を形成することが観察され、タウ相転移にはタウ液滴形成が関わっている可能性が示唆された。タウをさらに凝集させるため、N末を欠損させ、青色光と微小管重合阻害剤の処置を行った結果、タウは不溶性の凝集体を形成することが示された。よって、OptoTauは、凝集最初期に液-液相分離によって液滴を形成し、N末端カット等のフラグメンテーションが起こることでタウ凝集に結びつくと考えられた。分解系との関わりを観察すると、最初期においては、OptoTauはaggresomeに存在した。最初期におけるタウの翻訳後修飾を観察すると、S202, T205, T217, S262, S422といったアミノ酸残基がリン酸化されていることが観察された。以上より、タウが凝集するという相転移時の最初期には、液-液相分離、フラグメンテーションや微小管破壊といった性質変化が必要である可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、これまでに確立した光遺伝学的手法を利用し、細胞内で生じるタウの相転移が病態形成に果たす役割の解明を目的とする。具体的には、CRY2oligと融合したタウ(OptoTau)を用いて、(1)タウ凝集体がどのような性質を獲得するのか、(2)他分子にどのような影響を及ぼすのか、(3)同定した他分子がタウ凝集にどのような効果を示すか、という3項目を令和5年度から7年度の3年間で検証する。 令和5年度は、タウが凝集するという相転移時の最初期には、液-液相分離、フラグメンテーションや微小管破壊といった性質変化が必要である可能性を見出した。よって、(1)が確実に実施された。したがって、おおむね順調に進展していると自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度は交付申請書に則って研究を進め、確実にデータを出すことに成功した。令和6年度についても交付申請書に則って進める予定とする。具体的には、二つ目の実験である、相転移時の細胞状態の解析を進める。ここでは、細胞における転写情報を調べることによって、タウの相転移時に細胞内の他分子にどのような変化を誘引するかを解析する。今回の実験系では、全ての細胞で顆粒状構造体が観察されるわけではないため、光照射した部分のみで転写情報を引き出すことが可能なPIC技術を用いて、空間トランスクリプトーム解析を行う。バックアップとして、従来のRNA-seqも用いた細胞バルクにおける観察も行う。その上、同様の検討をin vivoで行うため、タウ凝集が観察されるP301S変異タウ過剰発現マウス(PS19)を用いた実験も実施予定とする。本実験のデータから特定された分子について、一つ目の実験との突合を行い、神経変性疾患に最初期に起こるであろうタウ相転移の異常によって変化する分子を推定する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度ではタウ凝集体がどのような性質を獲得するのかを検討した結果、想定した結果が得られた。よって、バックアップの実験分の予算を、本研究中最も予算が必要と考えられる令和6年度にまわすことにしたため、次年度使用分が生じた。
|