研究実績の概要 |
大村智記念研究所における抗真菌活性物質探索スクリーニングの結果、糸状菌よりポリセリン含有28員環環状デプシペプチドFKJ-0225Aおよび天然類縁体が見出された。本化合物は既知化合物であったが、薬剤抵抗性を示すCandida aurisにも強力な抗真菌活性を示したことから、抗真菌薬のシード化合物と期待された。加えて、これまで単離された天然ペプチド化合物には見られないポリセリン構造ならびに全合成の達成や絶対立体配置の決定はこれまでに報告がなかったことから合成研究に着手した。 本研究では、当研究室のペプチド合成において積極的に用いている疎水性タグをアミノ基に用いることとした。一般的にペプチド合成ではカルボン酸側に疎水性タグを導入し、合成を進める。本研究では疎水性タグの有用性拡張に向け、アミノ基に担時できるカーバメート型疎水性タグを発案した。実際にペンタフルオロフェノールを脱離基としたカーボネート型タグが適切な反応性、及び安定性を有することを明らかにし「N-担持型可溶性疎水性タグTCbz-OArF」の開発に至った。さらに基質一般性や固相-疎水性タグのハイブリッド合成法の確立し、論文として報告した。 当初の目的であるFKJ-0225Aの合成は先に開発したTCbzを利用した収束的合成戦略を立案した。まず未決定であったβ-ヒドロキシ脂肪酸は天然由来FKJ-0225の分解実験とキラルプール法を用いた合成により立体決定を行い、3S,4Rと決定した。続いて、3つのL-セリンと1つのD-セリンが連続した構造の配列決定は、4種を合成し、最終化合物の機器データを比較することで天然由来FKJ-0225の絶対立体配置を決定することとしている。現在、4種のテトラセリンの合成を達成し、全合成に向けたフラグメントカップリングおよびマクロ環化の検討を進めている。
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