研究実績の概要 |
超高齢化社会が進む我が国において、慢性心不全の患者数の益々の増加が心不全パンデミックとして懸念されている。心不全の発症において心筋肥大と心線維化が共通する危険因子である。申請者らは内因性ヒストンアセチル化酵素(HAT)活性を有する核内転写制御因子p300がGATA転写因子群との協調的に作用(p300/GATA4複合体)、GATA4やヒストンのアセチル化、GATA4の多量体化を介して心筋細胞肥大や心不全を発症することを報告してきた(Mol Cell Biol 2003, Circulation 2006, J Biol Chem 2008, 2010, Int J Mol Sci 2021, Int J Biol Sci 2022)。また、p300は線維化反応を司る転写因子SMADをアセチル化・活性化することが知られている(Oncogenesis 2007)。以上から、核内p300活性を調節することが、心筋細胞肥大・心線維化の双方を制御する新たな心不全治療・予防法となる可能性が示唆される。しかし、心不全発症時にp300が何によって活性化されるのか、その制御機構は明らかではない。心筋・心線維芽細胞の核内共通経路の活性化制御機構を明らかにすることは、新たな心不全の治療・予防法の確立に向けた極めて重要な知見となる。 本研究では、核内転写コアクチベーターp300と申請者が見出した新たなp300複合体構成因子であるメチル化酵素であるp300 binding protein 1 (p300BP1)を中心に、心不全発症に関与するp300の活性化制御機構の解明、心不全発症・進展時におけるp300/p300BP1複合体の寄与を明らかにする。本研究を遂行することで、p300/p300BP1複合体を切り口に複雑な心筋・線維芽細胞の核内情報伝達経路の一端の解明に繋がる。
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