研究課題/領域番号 |
23K06155
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
渋谷 典広 山陽小野田市立山口東京理科大学, 薬学部, 准教授 (40466214)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | D-システイン / シスプラチン / 腎障害 / 硫化水素 / テトラスルフィド |
研究実績の概要 |
薬剤性腎障害は世界的にもリスク認識が高まっているが、有効な予防法や治療法は確立されておらず、発現機序には不明点が残されている。なかでもシスプラチンは、様々な種類の腫瘍の治療において最も広く使用されている化学療法剤の一つである一方で、高用量では腎毒性のリスクがある。これまで申請者らは、D-システインからH2Sを産生する細胞内経路を見出し、腎臓の虚血再灌流障害がD-システインによって軽減されることを報告してきた。しかし、D-システインが薬剤性腎障害に対してどのような影響を及ぼすかについては不明である。本研究では、腎細胞株LLC-PK1を用いてシスプラチン誘発性腎毒性に対するD-システインの効果を調べた。10 mM D-システインでLLC-PK1をあらかじめ1時間インキュベートすると、0.05 mMシスプラチンで3時間曝露することで生じる細胞毒性を有意に低減した(p<0.01)。テトラスルフィドは、硫化水素の酸化物であるが、シスプラチンによる腎毒性を防ぐはたらきが報告されている。そこで、テトラスルフィドによる保護効果を検証したところ、0.1 mMの前処理で生存率が有意に回復したが、それ以上の濃度では生存率の低下を招きシスプラチン毒性を増悪させる結果となった。現在、その理由を確認しているが、D-システインが腎虚血再灌流障害のみならず薬剤性腎障害に対すてに保護作用をもつ可能性が示唆された。D-システインによる保護効果を明確化できれば、薬剤性腎障害に対する新たな予防法や治療法を提示できることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度と次年度で実施する予定の研究内容が一部前後している。次年度に行うべきであった内容が得られているものの、計画期間全体での調整を図りながら進めることができている。進捗度合いとしては概ね順調に進行していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
当初は最終年度に実施する予定であったD-システイン経路のノックアウト細胞の作製に着手し始めている。硫化水素やテトラスルフィドの標的としては、酸化ストレス経路やアポトーシス経路がある。ノックアウト細胞が得られ次第、酸化ストレス防御機構Nrf2-Keap1システムを含めてD-システインによる細胞保護機能の機序解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度と次年度で実施する予定の研究内容が一部前後したことに伴い、予算執行額に差異が生じた。培養腎細胞におけるD-システイン経路の細胞内局在性を明らかにするため、バイオイメージング法を行うための蛍光色素や抗体の使用に充てるとともに、ノックアウト細胞の作製に必要とされるトランスフェクション試薬類やディッシュ類の消耗品に充当する。
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