研究課題
肺高血圧症の中で最も典型的な臨床像を示す肺動脈性肺高血圧症は、肺血管の攣縮(過収縮)やリモデリング(肥厚・線維化・炎症)によって持続的に肺動脈圧が上昇する致死性の難病である。これまでに申請者は、肺動脈性肺高血圧症の病態形成にカルシウム感受性受容体や血小板由来増殖因子受容体の発現および機能の亢進が関与していることを明らかにした。ごく最近、健常人と肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞を用いて、RNAシークエンス解析を実施した。その結果、肺血管リモデリングに寄与するシグナル経路として、Hippoシグナルを同定した。肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞において、Hippoシグナルの中心的分子であるYAPおよび転写因子であるTEAD、線維化マーカーであるCYR61の発現が増加していた。Hippoシグナルは、細胞の生死・増殖・分化などを制御することが知られているシグナル経路である。血小板由来増殖因子受容体の下流シグナル経路として、Hippoシグナルが関与するという作業仮説を検討した結果、血小板由来増殖因子の刺激によって時間依存的にYAPやTAZが活性化(リン酸化)された。また、肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞では、YAPが核内に貯留していることも分かった。これらの発現増加は、血小板由来増殖因子受容体のsiRNAノックダウンによって抑制された。以上の結果より、血小板由来増殖因子受容体の下流シグナル経路として見出したHippoシグナルの活性化は、肺動脈性肺高血圧症の特徴である肺血管リモデリングに関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した本年度の計画に沿って、実験を進めることができた。また、その研究成果を学会発表や学術雑誌で精力的に発表することができた。
血小板由来増殖因子受容体の下流において、Hippoシグナル経路が関与しているという作業仮説を検討した結果、肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞において、Hippoシグナルの主要分子であるYAPや転写因子であるTEADが定常的に活性化、もしくは機能破綻していることを示唆する結果を得ている。今後の研究においては、YAPやTEADの活性を制御しているユビキチン化酵素や脱ユビキチン化酵素の活性について検討する予定である。
今年度の学会は、近隣での開催だったため、旅費の支出が抑えられた。次年度は、前年度の残額を活用して、健常人と肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞を用いて、RNAシークエンス解析を含めた網羅的解析を実施する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (18件) 備考 (1件)
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