研究課題/領域番号 |
23K06220
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
古石 誉之 星薬科大学, 薬学部, 講師 (90385980)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | イオン液体 / アルギニン / クエン酸 / 薬物溶解性 / 口腔内崩壊フィルム製剤 |
研究実績の概要 |
令和5年度は,アミノ酸の一種であるアルギニン(Arg)とカルボン酸類とのイオン液体(IL)形成における,相互作用解明を行った.そのうち,クエン酸(CA)とアルギニン(Arg)によるILを溶媒流去法により作製を試み、粉末X線回析測定(PXRD)、FT-IR測定及び示差走査熱量測定を行った結果より,CAとArgのモル比率が1:2のとき、非晶質、塩形成、高いガラス転移点が確認された。そのため、CAとArgによるILの最適比率は1:2付近と示唆された。また,このILを用いた薬物可溶化能をPXRDにより検討した結果、一硝酸イソソルビド、アテノロール(ATL)及びカルベジロール(CVD)はILへの溶解性があると認められた。先行研究におけるリンゴ酸とArgのILとの薬物可溶化能を比較した結果、CAとArgのILの方が塩基性薬物のATLとCVDの溶解性が高いこと、酸性薬物のイルベサルタン(IST)の溶解性が低いことが確認された。ATLとCVDの溶解性が高い要因は、ATLのアミド基やCVDのアミンとCAのカルボキシ基の水素結合形成による分子間相互作用が関与しており、より多くのカルボキシ基を持つCAでは水素結合数が増えるためと推察された。ISTの溶解性が低い要因は、CAの方がカルボキシ基を多く持ち、IST内のテトラゾール基との反発が大きいためと推察された。以上より、CAとArgモル比1:2でILを形成し、CAとArgのILにおいては塩基性薬物の溶解性を向上させることが明らかとなった。 この結果を踏まえて,口腔内崩壊フィルム製剤の製剤設計について,フィルム基剤のスクリーニングを行ったところ,ポリビニルアルコールを用いたときに,透明性が高く,折曲がり試験に耐えうるフィルム製剤を作製することができ,水への崩壊性も市販フィルム製剤と同等の時間であることがあることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は,アミノ酸の一種であるアルギニン(Arg)とカルボン酸類の一種であるクエン酸(CA)とからなるイオン液体(IL)における相互作用について検討を行った.この結果,CAとArgモル比1:2でILを形成することが分かった.また,このILについて薬物溶解能について検討したところ,従前の結果であるアルギニンとマレイン酸と同様に薬物を溶解させることが明らかとなり,特に塩基性薬物の溶解性を向上させることが明らかとなった。この結果はArgに対して特定のカルボン酸の鎖長だけでIL形成できるのではなく,様々な鎖長をもつカルボン酸類の組み合わせによってILが形成されることが分かった.また,カルボン酸類の鎖長によって薬物物性と溶解性が関連することが分かった. この結果を基に,半固形製剤としてEudragitを基剤としたゲル状の半固形製剤の作製をArgとカルボン酸類でのILを溶媒にして試みたところ,ゲル状物質を形成することができなかった.これはEudragitを溶解させることだけの脂溶性をもつILで無かったと推測し,他の基剤を用いた展開を続けている. 口腔内崩壊フィルム製剤の製剤設計について,フィルム基剤のスクリーニングを行ったところ,ポリビニルアルコールを用いたときに,透明性が高く,折曲がり試験に耐えうるフィルム製剤を作製することができ,水への崩壊性も市販フィルム製剤と同等の時間であることがあることが分かった.この結果は当初予定していた生体適合性の高いアミノ酸を基盤したILを溶媒として用いた製剤設計の一途を担う結果であることを示唆している.
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度の結果から,Argとカルボン酸類とのILを溶媒とした口腔内崩壊フィルム製剤の設計において,基剤としてポリビニルアルコールを用いたときに,透明性が高く,折曲がり試験に耐えうるフィルム製剤を作製することができ,水への崩壊性も市販フィルム製剤と同等の時間であることがあることが分かった.今後は,スルフォニルウレア系経口抗糖尿病薬を中心とした幾つかの薬物を含有した製剤作製を行い,フィルム崩壊性や折りたたみ性などのフィルム製剤特性に加えて,フィルム中の薬物-基剤,もしくは薬物-IL間との相互作用についても明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度購入したグラフ作成ソフト「Origin Pro」用専用パソコンを購入する予定であったが,所属施設で所有している余剰のPCがあり,これがソフトを利用するのに十分なスペックを有していたことから,新たなPCを購入することがなかったことから,その経費を繰り越すこととなった.次年度は研究代表者の異動があり,一から研究環境を整える必要があるために,そちらの整備に使用することとする.
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