慢性骨髄性白血病は90%以上でBCR-ABL1タンパクが認められ、このBCRABL1により恒常的に細胞内シグナル伝達が活性化し、白血病細胞が増殖することが病因となっている。近年、BCR-ABL1を標的としたBCRABL1チロシンキナーゼ阻害薬であるダサチニブ及びイマチニブなどにより、5年生存率が飛躍的に改善された。しかし、30%の患者でこれらBCR-ABL1阻害薬に対して耐性獲得が生じ、臨床上大きな問題となっている。このBCR-ABL1 阻害薬耐性の原因には、BCR-ABL1の点変異があり、これにより阻害薬の結合が低下する。この耐性変異に対してポナチニブなどの第3世代チロシンキナーゼ阻害薬が開発され、耐性患者の予後は改善されつつあるが、これらの第3世代の薬剤に対しても耐性細胞が出現する事が臨床上認められており、完全な耐性克服には未だ至っていない。特に、BCRABL1阻害薬耐性患者のおよそ30%にはBCR-ABL1結合部位のアミノ酸点変異を認めない耐性が存在し、MDR1やBCRPなどの薬剤排泄トランスポーターの過剰発現等が報告されているものの、その耐性機序の詳細は未だ不明である。すなわち、これらの点変異を認めないBCR-ABL1阻害薬耐性に対する有効な治療法が無く、患者の生命予後の観点からも、その耐性獲得機序の全解明、そして有効な治療薬の探索が臨床上の急務となっている。本実験では、この点変異を認めないBCR-ABL1チロシンキナーゼ阻害薬耐性の機序を解明し、その機序を阻害する分子標的薬を見出すことで、耐性患者の生命予後を改善する治療法を確立する事が本研究の目的である。
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