研究実績の概要 |
PARP (poly ADP ribose polymerase) は細胞内に存在する酵素であり、損傷したDNA鎖を修復する。このPARPを分子標的とし阻害するPARP阻害薬(PARPi)の有用性が、がん治療において確認されている。PARPiは特定のDNA修復異常を示すがんに有効であり、その一方で作用増強を目的としてPARPiと従来の殺細胞性抗がん薬との併用が考えられている。本研究ではアントラサイクリン系抗がん薬とPARP阻害薬との併用時の作用機構を解明することを目的とし、本年はMitoxantrone (MIT)を検討した。 まず、MITの細胞死における活性酸素種 (ROS) の関与について検討した。細胞毒性は、4h, 6h, 24hで見られ、4hでHL-60 > HP100であったが、顕著な差は見られなかった。DNAラダーの形成、ミトコンドリア膜電位の変化も同様であり、一方、細胞内ROS生成の上昇は認められなかった。したがって、MITの作用機序として、一部ではROSの寄与が示唆されたが、その影響は小さく、DNA鎖との架橋形成あるいはトポイソメラーゼII阻害の寄与が大きいと考えられた。 次に、PARPiとしてOlaparib (OLA) とVeliparib (VEL)を用い、MITとPARPiの併用を検討した。細胞生存率はトリパンブルーを用い、Countess Automated Cell Counter (Invitrogen) で測定した。細胞死のマーカーとして、蛍光顕微鏡(EVOS FLoid Imaging System, Invitrogen)でのヘキスト33342によるクロマチン凝縮、DiOC6(3)によるミトコンドリア膜電位、H2DCFDAによる細胞内ROSを測定した。MITは、HL-60細胞に対し細胞生存率を低下させ、この低下はOLAとVELにより抑制された。MITによるクロマチン凝縮はOLAとVELの影響を受けなかった。MITによるミトコンドリア膜電位の低下はOLAとVELにより抑制された。さらにMITによる細胞内ROS上昇はVELにより抑制されたが、OLAの影響を受けなかった。今後、さらに併用効果の詳細について検討したい。
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