研究課題/領域番号 |
23K06304
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
鈴木 厚 広島大学, 両生類研究センター, 准教授 (20314726)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 自閉症 / 神経形成 / Clkファミリー / 誘導因子シグナル |
研究実績の概要 |
自閉症は、社会性障害などを特徴とする発達障害群であり、脳の構造と機能の異常が基礎にあると考えられている。ヒトの遺伝学的解析や変異マウスの解析が始まっているが、その発症機序はよく分かっていない。研究代表者は、神経発生学的解析に強みを持つツメガエルの神経板に局在するリン酸化酵素としてClk2を単離し、Clk2が神経形成に重要な誘導因子シグナルを制御して神経誘導を引き起こすことを論文発表した(2019年)。さらに、Clk2に加えて、ClkファミリーメンバーのClk3が神経形成に必須であることを証明して論文発表した(2021年)。最近、哺乳類のClk2が自閉症治療薬の創薬ターゲットになることが示され、神経発生におけるClkファミリー経路の機能解析が早急に必要である。本研究では、Clk2/3およびClk2/3と協調的に働くClk共役因子による神経形成制御、さらに誘導因子シグナルに対する作用機序を解析し、Clkファミリー経路の破綻が、自閉症に繋がる脳形成異常を発症する機構を解明する。 今年度は、Clk2/3と協調して神経形成を制御するClk共役因子の候補を2つ同定した。このうちの一つ(Clk共役因子候補1)の時期特異的な遺伝子発現パターンを調べたところ、母性mRNAとして発現し、その後も原腸胚期と神経胚期を通じて初期発生過程で発現が維持されていた。ホールマウントin situハイブリダイゼーション法による解析では、卵割期から胞胚期にかけて将来の外胚葉になる動物極側に発現が限局しており、神経胚期の神経板とその周辺、および尾芽胚期の脳・脊髄などの神経系に強く発現することが分かった。さらに、ツメガエルの初期発生過程でClk共役因子候補1とClk2を共発現するとClk2の神経誘導作用が強まったことから、Clk共役因子候補1がClk2/3と協調して神経形成を制御する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Clk2/3は、結合因子やリン酸化標的因子などのClk共役因子と協調的に働いて生理作用を発揮すると考えられる。ヒトタンパク質相互作用解析データベースおよびツメガエルの遺伝子発現データベース等を用いてClk2/3に結合するタンパク質を探索し、Clk共役因子の候補を2つ同定した。このうちの一つ(Clk共役因子候補1)を特異的に検出することが可能なプライマーを設計し、各発生ステージ別に収集したツメガエル胚のcDNAを用いてRT-PCR法による時期特異的な遺伝子発現の解析を行った。RT-PCR解析の結果、Clk共役因子候補1は母性mRNAとして発現し、その後も原腸胚期と神経胚期を通じて初期発生過程で発現が維持されていた。次に、神経胚期のcDNAからPCR法によって完全長のClk共役因子候補1遺伝子を単離することに成功した。得られた完全長cDNAからアンチセンスプローブを作製した後、各発生ステージで固定したツメガエル胚を用いてホールマウントin situハイブリダイゼーション法を行った。その結果、この遺伝子は卵割期から胞胚期にかけて将来の外胚葉になる動物極側に発現が限局しており、神経胚期の神経板とその周辺、および尾芽胚期の脳・脊髄などの神経系に強く発現することが分かった。さらに、Clk共役因子候補1とClk2をコードするmRNAをツメガエル胚に顕微注入して共発現した後に外胚葉組織片を取り出して培養すると、Clk共役因子候補1はClk2の神経誘導作用を強めた。以上のことから、ツメガエルの初期発生過程において、Clk共役因子候補1がClk2/3と協調して神経形成を制御する可能性が示唆された。したがって、おおむね研究は順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Clk共役因子候補1遺伝子の発現を詳細に調べるために、ホールマウントin situハイブリダイゼーションを行った胚から組織切片を作製し、組織・細胞レベルで候補遺伝子の発現領域を特定する。さらに、Clk共役因子候補1遺伝子に特異的なモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドを作製し、これをツメガエル初期胚に顕微注入することによって機能阻害実験を行う。また、機能阻害胚の形態や遺伝子マーカーの発現を調べることによって、脳形成異常を発症する機構を分子レベルで解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りに研究が進んだため、繰越額は僅かである。次年度に消耗品として使用する予定である。
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