研究課題/領域番号 |
23K06340
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
鷹野 誠 久留米大学, 医学部, 教授 (30236252)
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研究分担者 |
大野 聖子 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, オープンイノベーションセンター, 部長 (20610025)
武谷 三恵 久留米大学, 医学部, 准教授 (30289433)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 心房細動 / パッチクランプ / 膜電位感受性色素 / ジフテリア毒素 / HCN4チャネル |
研究実績の概要 |
心臓にはそれぞれ左右の心房と心室の4つの部屋があります。このうち右心房は全身から戻ってきた血液を、左心房は肺から戻ってきた血液をいったん溜めておく機能を持っています。この心房が規則正しく収縮することができず、ブルブルと細かく震える状態になってしまうことがあります。この状態を心房細動といい、心房の中で血液がよどむために血のかたまり(血栓といいます)ができやすく、これが全身の血流にのって脳の血管に詰まると脳梗塞を起こすため、医療の現場では大きな問題となっています。私たちはこの心房細動の治療法を開発するため、特殊な遺伝子改変マウスを使って心房細動を再現することを試みています。 これまでに心房の筋肉に障害を与える方法を試みてきました。そのために我々はジフテリア毒素を利用することを試みました。マウスの細胞にはジフテリア毒素が細胞の中に入って作用を発揮するための受容体がありません。そのため通常のマウスにジフテリア毒素を投与しても全く問題がありません。しかし心房筋にのみジフテリア毒素が結合できる受容体を人工的に発現させた遺伝子改変マウスでは、ジフテリア毒素を投与すれば心房筋にのみ障害を与えることができます。実際にこのような実験をしてみたところ、心房筋だけではなくペースメーカー細胞にも障害が強く生じてしまい、マウスの生存率が非常に低くなり、うまく心房細動を起こすことが容易ではないことが判明しました。そこで今年度は心房細動を起こすもう一つの方法として、心拍数を遅くした遺伝子改変マウスの心房筋に電気刺激を与える方法を試みようとしています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
sarcoripin遺伝子座にcre recombinaseをノックインしたマウスslc_cre/creとRosa26遺伝子座にジフテリア毒素受容体cDNAをノックインしたマウスR26_DTR/DTRとを交配し、ダブルノックインマウスslc_Cre/+::R26_DTR/+を作成した。このマウスにジフテリア毒素を投与し、2週、4週、8週目に心電図を記録することを試みた。しかしながら、ほぼ全数のマウスが死亡するため、ジフテリア毒素の投与量を1/1,000から1/10,000まで低下させてみたが、心房細動が誘発されたのは64例中1例のみで、心房細動の誘発効率が非常に悪いことが判明した。そのため2024年度からはHCN4ノックダウンマウスを使い、徐脈による心房筋リモデリングの解析に方針を転換する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
HCN4遺伝子座にテトラサイクリン遺伝子スイッチをノックインしたHCN4_tTA_TRE/+マウスと、同様にルシフェラーゼcDNAをノックインしたHCN4_luc/+マウスを交配し、ダブルノックインマウスHCN4_luc/tTA_TREを作成する。このマウスは交配効率が非常に低いので、HCN4_luc/+メスマウスを大量に準備したのち、排卵誘発剤を投与し、卵子を大量に培養する。これに対してHCN4_luc/tTA_TREオスから採取した精子を使って人工授精し、胚を大量に凍結保存する。これを適宜解凍して仮親メスマウスに移植し、産仔を得る。この方法により、効率よく週齢の揃ったHCN4_luc/tTA_TREを得ることを試みる。 HCN4_luc/tTA_TREにドキシサイクリンを5週間投与することにより洞不全症候群を誘発する。その後、全身麻酔下に経食道カテーテルを用いて心房ペーシングを行い、これを繰り返すことにより持続性心房細動を誘発することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ジフテリア毒素投与による心房筋障害モデルは致死性が高く、研究実施が困難であった。そこでHCN4ノックダウンマウスを使った実験を主体として研究を行うことに方針を変更した。しかしHCN4ノックマウスは交配が困難であり、十分な数のマウスを準備することができなかったため、研究経費を次年度に回し、その費用を使って人工授精による胚作製と個体制作を実施する計画を新たに立ち上げた。
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