研究課題/領域番号 |
23K06343
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
波多野 亮 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (60521713)
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研究分担者 |
三木 隆司 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (50302568)
李 恩瑛 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (60583424)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 腎糖新生 / ケトン体 / β-ヒドロキシ酪酸 |
研究実績の概要 |
糖新生は飢餓時にエネルギー源であるグルコースを供給するための重要な生理学的機能である。肝臓における糖新生については生理学的な役割や糖尿病時の病態生理学的役割について多くの研究がなされているが、その律速酵素であるG6PaseやPEPCKは肝臓の他に、腎臓の近位尿細管において高発現することが知られる。飢餓時において肝臓だけでなく腎臓においても糖新生が誘導されるが、その制御機構や役割に関しては十分に明らかになっていない。我々は腎臓における糖新生制御機構を明らかにする目的で本研究を実施した。短期及び長期絶食、高脂肪食負荷などの様々な条件で肝臓、腎臓における糖新生律速酵素の遺伝子発現を解析したところ、腎臓における糖新生遺伝子の発現が血中のケトン体濃度と強い相関を示すことを見出した。そこで、ケトン体の負荷実験やケトン体合成が障害されたPPARα欠損マウスを用いた実験を行うことでケトン体による腎糖新生への影響を調べたところ、主要なケトン体であるβ-hydroxybutyrate (BHB)が飢餓時における腎糖新生遺伝子の発現誘導に必須であることが明らかになった。また、ケトン体による腎糖新生の制御はグルタミンを利用したNH3生成を通じて酸・塩基平衡の調節にも重要な役割を持つことが示された。さらに、ケトン体合成の障害を伴う脂肪酸代謝異常症(Fatty acid oxidation disorder)患者において見られる空腹時の低血糖や代謝性アシドーシスの発症にはケトン体合成不全に伴う腎糖新生の制御異常が関与しているものと考えられた。本研究においては、肝臓で脂肪酸の代謝によって生成されたケトン体が腎臓の糖新生を制御するという新たな臓器間ネットワークの存在を示すことに成功した。本研究成果は英文雑誌Molecular Metabolismに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定よりも順調に研究が進み十分な研究データが得られたため第一報を取りまとめ、英文雑誌Molecular Metabolismに投稿し、掲載受理された。加えて、研究の過程で新たな課題や興味深い知見が得られており、さらなる研究成果が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
第一報での研究成果では、腎糖新生遺伝子発現が肝臓で合成されたケトン体によって制御される臓器間ネットワークの存在を明らかにしたが、ケトン体による遺伝子発現制御の詳細な分子機構については不明な点が残されている。またケトン体が腎臓への直接的な作用だけでなく、他の組織・細胞でのエネルギー代謝に及ぼす影響や全身レベルでの様々なエネルギー基質の体内動態に及ぼす影響についても検討が必要であり、ケトン体をシグナル分子として利用して腎臓の糖新生を促すことによって全身におけるエネルギー代謝にどのような影響を及ぼすかについて解析を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が当初の予定よりも早く進捗したため第一稿を取りまとめることを優先し、次年度に一部の実験計画を移行することとした。そのため物品購入にかかる次年度使用額が生じた。
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