研究課題
1)プロポフォール誘発性プロテインキナーゼC(PKC)トランスロケーションの機序の解明を行った。PKC-GFPまたは他のGFPを融合タンパク質をHeLa細胞に発現させ、共焦点レーザー顕微鏡を用いてPKCの動態を観察した。細胞内PKC活性化の指標であるC kinase activity receptor(CKAR)を用いて、細胞内のPKC活性化を測定した。また、プロポフォールの異性体や誘導体を用いて、このプロセスに関与する重要な構造モチーフを同定した。プロポフォールは、PKC分子特異的に持続的に細胞膜やゴルジ体、小胞体に移行させた。さらに、プロポフォールはおそらく核膜の透過性を変化させることによって、PKCと他のタンパク質の核内移行を誘導した。CKAR分析により、プロポフォールはPMとゴルジ体でPKCを活性化することが明らかになった。さらに、プロポフォールの異性体や誘導体を用いた解析から、PKCの誘導と核移行に重要な構造モチーフは異なることが予測された。今回の発見は、副作用を含むプロポフォールの作用機序に関する洞察を提供した。2)SERTは抗うつ薬の主な標的であり、うつ病の発症と関係する。しかし、SERT機能がどのように制御されているかは完全には解明されていない。S-パルミトイル化によるSERTの翻訳後制御について検討した。FLAG-SERTを発現したAD293細胞を用いて、未成熟なSERTのS-パルミトイル化を観察した。アラニン置換による変異解析から、未成熟SERTのS-パルミトイル化は、少なくともCys-147とCys-155で起こることが示された。さらにこれらの S-パルミトイル化は、SERT の細胞表面発現と 5-HT 取り込み能の両方に重要であることが示された。SERTのS-パルミトイル化のさらなる研究は、うつ病の治療に対する新たな知見を提供する可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
プロポフォール誘発性のPKCトランスロケーションの解析から、プロポフォールはPKC以外のタンパク質を核内外の濃度が均一になるように核内外に移行させることが分かった。さらに、ゴルジ体や小胞体などの細胞内小器官にもPKCをトランスロケーションさせることから、これらの部位にプロポフォールが浸透し、様々な麻酔作用以外の作用を引き起こす可能性が分かった。プロポフォール注入症候群の発症機序解明の端緒を得ることが出来た。SERTのパルミトイル化部位の同定を世界に先駆けて報告することが出来た。また、SERT機能調節におけるパルミトイル化の役割の一端も明らかとなった。今後は、ケタミンのSERTに対する効果を解析する意義が深まった。
① プロポフォール・ケタミンが惹起するシグナル伝達機構の網羅的解析プロポフォール・ケタミンは様々なリン酸化酵素を活性化し、多様なタンパク質のリン酸化と遺伝子発現を誘導すると考えらえる。麻酔効果や副作用の発揮、あるいはSERTの機能調節に関わる分子が、それらに含まれる可能性が大きい。以下を検討する(1) プロポフォール・ケタミン処置した細胞をリン酸化プロテオミクスに供し、両麻酔薬が誘導するリン酸化タンパク質を網羅的に検索する。 (2)同様に処置細胞をRNA-sequenceに供し、発現が変動する遺伝子を網羅的に解析する。(3) ケタミンの抗うつ効果はR体がS体よりも強い。よって、リン酸化プロテオミクス、遺伝子発現の程度がR体においてS体よりもより強い変化が現れる分子・遺伝子群を、ケタミンによる抗うつ効果の発揮に関連する分子・遺伝子群として抽出する。② プロポフォール・ケタミンによるSERTの機能調節機構の解析細胞膜に発現するSERT機能のダウンレギュレーションが、抗うつ作用の発揮につながると考えられている。遺伝子導入によりSERTを一過性・安定発現させたCOS-7細胞・HEK293細胞を用いる。セロトニン取り込み活性に対する、プロポフォール・ケタミンの影響を検討する。単位タンパク質量あたりのトリチウム・セロトニンの取り込みをセロトニン取り込み活性とする。SERTは、小胞体に存在する不完全糖鎖修飾体と形質膜に存在する完全糖鎖修飾体があり、immunoblotting解析で分子量の差から両者が区別可能である。両者の発現量を比較することにより、SERT膜輸送が評価できる。SERT膜輸送に対するプロポフォール・ケタミンの影響を検討する。麻酔薬はパルミトイル化に影響を与えることが報告されている。両麻酔薬のSERTパルミトイル化に対する影響を検討する。
適切な執行を行った結果10096円の未使用額が生じた。次年度予算と合わせて、消耗品費として使用する。
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