研究実績の概要 |
近年、経験した出来事を時間、空間的な文脈とともに記憶するエピソード記憶の保持障害や理解・判断力の障害などはあるが、日常生活に支障をきたさない状態が軽度認知障害と定義された。軽度認知障害から年間10-30%が認知症に進行する一方で、5年後に38.7%が正常化したという報告もなされた(Malek-Ahmadi, Alzheimer Dis Assoc Disord 2016)。認知症を根治できる薬物療法は存在しないことから、可逆性の残る軽度認知障害に対する創薬候補分子の探索や治療法の確立が求められている。学習・記憶の素過程は、ニューロン同士の接着部位(シナプス)において伝達効率の上昇が長期的に持続する長期増強(LTP)であり、樹状突起スパインの構造変化である。スパインの構造変化はアクチン細胞骨格の重合により引き起こされるが、体積変化が数時間以上持続し、LTPが持続する分子基盤は不明な点が多い。報告者はアクチン、微小管、中間径フィラメントに次ぐ第4の細胞骨格であるセプチン(SEPT1-14)の神経系における役割を探索してきた(Ageta-Ishihara et al., Nat Commun 2013, Nat Commun 2015, Neurochem Int 2018, Neurosci Res 2021)。報告者は多様な精神・神経疾患との関連が示唆されているセプチン細胞骨格の生理機能を探索する中で、セプチン細胞骨格と記憶固定化との関与を見出している。本研究では、これら未発表データに基づき、chemically induced dimerization(CID:化学的タンパク質二量体化法)を応用した技術の構築を進めた。
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