研究課題/領域番号 |
23K06428
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
刑部 光正 岩手医科大学, 医学部, 特任准教授 (60400561)
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研究分担者 |
菅井 有 岩手医科大学, 医学部, 非常勤講師 (20187628)
柳川 直樹 岩手医科大学, 医学部, 教授 (90444033)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 大腸癌 / TP53変異 / p53免疫組織化学的染色 |
研究実績の概要 |
大腸癌の発生にはTP53変異が関与しており、変異状態の把握は病態解明の上で重要であるが、遺伝子変異解析を日常的に施行しうる施設は限られており、多くの施設は免疫組織化学的染色 (免疫染色)で代替している。しかし、野生型p53蛋白 (p53)は翻訳後ただちに分解され、従来行われている免疫染色では検出が困難である。TP53のmissense変異は変異型p53の核内蓄積として検出できるが、nonsense変異を含む機能喪失型変異によるp53発現消失は、野生型p53の検出が困難なため判定できない。婦人科領域では野生型p53が検出可能である染色protocol (新法)を用い、TP53発現状態をTP53変異を有さない野生型、TP53変異有する過剰発現型、欠失型、細胞質発現型の4発現パターンで評価を行う事でTP53変異解析と良好な一致性を示す事が知られており、TP53全exon変異解析の代替法として推奨されている。 大腸癌においても新法がTP53変異解析の代替法となりうるならば、大腸癌の病態解明と治療の発展に寄与し、実務では高異型度腺腫と粘膜内癌との鑑別、潰瘍性大腸炎に生じたdysplasiaと通常型腺腫との鑑別の診断精度向上につながる。 そこで92例の大腸癌におけるTP53全exon変異解析と新法によるp53発現状態の一致性を検討した。92例中57例(62%)にTP53変異を認めた。TP53変異解析結果とp53発現状態の一致性はκ係数が0.820 (95%信頼区間0.701-0.938, p < 0.0001)であった。変異の存在する機能ドメインと変異形式、p53発現状態の一致性は、いずれの組み合わせでもκ係数は0.7以上であった。以上から大腸癌においても、新法を用いる事でTP53変異状態を高い精度で予測可能であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
92例の大腸癌のTP53全exon変異解析と新法p53に基づくp53免疫組織化学的染色およびその評価が終了し、TP53変異解析結果とp53発現状態の一致性はκ係数が0.820 (95%信頼区間0.701-0.938, p < 0.0001)と非常に良好であった。また、変異の存在する機能ドメインとその変異形式、p53発現状態の一致性は、いずれの組み合わせでもκ係数は0.7以上と良好な結果が得られたため、第113回日本病理学会総会で発表を行った。また、これまでの研究成果をVirchows Archivに投稿し、すでに掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの大腸癌におけるp53発現状態と予後との関係に関しての先行研究では、p53の過剰発現がみられた場合は予後不良であるとするものと、予後とは相関しないとする報告がそれぞれ複数報告されている。これらの報告では野生型p53の検出ができず、TP53変異を示す欠失型や細胞質発現型に関して評価されていないために一定の見解が得られていない可能性がある。 本研究のこれまでの成果により、大腸癌において、新法を用いたp53発現状態はTP53変異状態を良好に予測することが明らかとなった。そこで、300例の大腸癌症例に対し、TP53変異状態を良好に予測可能な新法を用いたp53免疫組織化学的染色を行い、p53発現状態と予後との関係に関して解析を進めている。
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