研究実績の概要 |
Crumbs3(Crb3)は一回膜貫通型の膜タンパク質であり、上皮組織に特異的に発現し細胞極性を制御することで正常な上皮組織の構築に寄与する一方、上皮由来の悪性腫瘍においては発現が亢進する傾向が認められ、免疫不全マウスを用いた移植実験により、大腸腺癌細胞の転移を促進することを明らかにした。しかし、Crb3がどのように腫瘍転移を促進するのか不明であるため、本研究では3年計画でCrb3の制御するリン酸化シグナル経路を明らかにすることを目的とした。予備実験によりCrb3自身がリン酸化を受けている結果が得られたため、リン酸化修飾を受けることが予想される細胞内ドメインのスレオニン92(T92), チロシン93(Y93), セリン96(S96)をアラニンまたはフェニルアラニンに置換することで非リン酸化型とし、さらにアスパラギン酸、グルタミン酸に置換して疑似リン酸化型とした変異タンパク質をそれぞれCrb3ノックアウト大腸癌細胞株に発現させ注意深く比較したところ、疑似リン酸化型のCrb3タンパク質の発現が野生型や非リン酸化型よりも弱く、不安定化する現象がT92、Y93、S96に同様に見られた。以上の結果から、Crb3タンパク質の制御には細胞内ドメインのリン酸化状態に加え、アミノ酸配列によって形成される構造が重要な意味を持つと考えられた。このことはリン酸化自体の意義を変異タンパク質を用いて示すことが困難である可能性を示している。
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