研究実績の概要 |
本研究は、ヒト腫瘍の中でも最も悪性度が高い脳腫瘍である膠芽腫 (グリオブラストーマ) において、細胞内代謝のダイナミックな変化により、癌細胞が“幹細胞性”を獲得して細胞生存や治療抵抗性に関わるという、新しい癌幹細胞理論の構築を目指すものである。幹細胞性の獲得に繋がる代謝の全体像を種々のオミクス解析で網羅的に解析し、特に幹細胞化の制御に関してハブとなる代謝経路を同定することで、未だ有効な治療法のない膠芽腫に対して、幹細胞化経路を標的とする新規治療法を開発することを最終目標としている。 本年度は、癌幹細胞誘導モデルの構築を主眼として研究を展開した。接着細胞であるU87およびT98G (膠芽腫) 細胞を幹細胞培地 (Neurobasal + EGF + FGF) で培養することでneurosphereを形成させると、幹細胞マーカー (Nestin, NANOG, OCT4, SOX2, MYC, BMI1, MSI, CD44) の発現が増加する事を見出した。またneurosphereでは、神経細胞 (Tuj1) やアストロサイト (GFAP) への多分化能を有する事を確認し、抗癌剤 (テモゾロミド) への感受性が低下する事も分かった。更には、幹細胞化させることで、マウス脳へのorthotopic implantationで造腫瘍能が増加した。 これらの結果は、癌幹細胞としての定義を満たすものであり、今後の研究を展開する上で必須となる癌幹細胞誘導モデルが構築できたことを意味する。また、幹細胞への変化は1週間程度の培養期間で誘導されるダイナミックなものだが、十分な幹細胞性を発揮するには4週間程度の培養期間が必要である事も分かり、次年度以降の研究を進める際に参考となるデータが得られたと考えている。
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