研究課題
これまでのわれわれの研究により、GPIアンカー型細胞表面タンパクMeflinが多くの組織における間葉系幹細胞のマーカーになるとともに、がん間質において増殖するがん関連線維芽細胞(Cancer-Associated Fibroblasts, CAF)のマーカーになることが明らかになっている。CAFにはがんを促進する「がん促進性CAF」とがんを抑制する「がん抑制性CAF」が存在することが示唆され、われわれはMeflinが「がん抑制性CAF」のマーカーとなる可能性を示した。しかしながら、これらのCAFがどのような細胞を起源として増殖してくるかについては十分理解が進んでいない。今回、大腸がんおよび膵がん組織で増殖するCAFの起源について、それぞれのがんを発生するマウスモデルを用いてlineage-tracing法により解析した。その結果、大腸がんでは粘膜上皮周囲に存在するレプチンレセプター陽性の間葉系細胞が増殖し、ACTA2陽性CAFになることを明らかにした。またACTA2陽性CAF細胞にはmelanoma cell adhesion molecule(MCAM)が発現し、CAFのマーカーになることや、治療標的分子になる可能性を示した。一方、膵がんにはおいてはCAFの多くがMeflin陽性の膵星細胞や間葉系幹細胞から由来するをことを示した。さらに、Meflin陽性細胞からはWntシグナルのエンハンサーであるR-spondin3が発現すること、Meflin陽性膵星細胞は膵炎で生じる線維化組織内でも増殖して、組織修復に関わることを明らかにした。組織内の間葉系幹細胞の性状やがん間質のCAFの起源と性状を明らかにすることにより、がん間質細胞および間葉系幹細胞の性質を有する骨肉腫や横紋筋肉腫などの軟部腫瘍に対する治療法開発に有用な知見を提供できるものと考える。
2: おおむね順調に進展している
われわれが同定したMeflin陽性間葉系幹細胞の性状やそれに由来するがん関連線維芽細胞の性状についての解析が進み、Meflinを標的としたがんの治療法開発のための基礎的知見を集積しつつある。
現在、すでに取得しているMeflinモノクローナル抗体の配列に基づいたChimeric Antigen Receptor(CAR)を組み込んだ発現ベクターを作成している。ヒト末梢血から得られるT細胞にCARを発現させたCAR-T細胞を樹立し、in vitro, in vivoにおけるヒト腫瘍細胞に対する障害活性を明らかにする計画である。
マウスを用いた腫瘍移植実験が予定より遅れており、一部の動物実験が次年度に実施する計画になったため。
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Journal of Pathology
巻: 262 ページ: 61-75
10.1002/path.6211