研究課題/領域番号 |
23K06494
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
萩山 満 近畿大学, 医学部, 講師 (60632718)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 軸索伝導遅延 / 接着分子 / 細胞外認識抗体 |
研究実績の概要 |
Cell adhesion molecule 1(CADM1)は免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞間接着分子である。生体内では全身の末梢神経線維の全長に渡って発現しており、軸索機能への寄与が想定される。 所属研究室でCADM1細胞外領域認識抗体を独自に作製した。本抗体を蛍光標識した後、細胞培養液に添加し、livingで細胞を観察したところ、抗体はCADM1発現細胞の細胞膜上に集積していた。本抗体はCADM1に強い親和性を有すると考えられ、抗体集積の結果、CADM1の機能障害が生じ、軸索伝導の遅延が生じるとの仮説を立てた。本研究課題ではこの仮説を検証し、本抗体の特性が医療上の薬効となり得ることを明らかにする。 本抗体(10μg)をマウス背部に皮下注射し、経時的に皮膚を採取して免疫染色にて抗体の検出を試みた。5時間後において真皮の末梢神経線維に広く局在することがわかった。マスト細胞や毛包上皮の一部にも集積が見られた。これらはいずれもCADM1の細胞膜発現が知られる部位であり、皮下注射した抗体は拡散してCADM1細胞外領域に結合しCADM1発現細胞膜上に集積すると考えられた。コントロール抗体ではそのような所見は得られなかった。 マウス後根神経節細胞を初代培養し、神経線維のネットワークを形成させた。マウス後根神経節細胞は全長に渡ってCADM1が発現している。培養系に本抗体を添加し(1μg/ml)、その5時間後に後神経細胞体の近傍にフェムト秒レーザーを照射し、衝撃波の機械的刺激により神経細胞体を発火させた。Ca2+指示薬にて軸索伝導を可視化したところ、軸索伝導の顕著な抑制が観察された。コントロール抗体では細胞体の発火が減衰することなく軸索に伝導していった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
皮下注射した抗体が何時間後に末梢神経に集積しているのかを免疫染色で調べ、また末梢神経に集積した抗体が何日間観察されるか経時的に調べたため。後根神経節細胞の神経発火・軸索伝導は抗体の存在下で抑制されるかをフェムト秒レーザー照射とCa2+イメージングで調べ、抗体の有効濃度・有効期間を明らかにしたため。
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今後の研究の推進方策 |
1)皮下注射から皮膚採取までの期間を延長し、神経線維への抗体集積が皮下注射後何時間・何日間維持されるのか検討する。 2)軸索伝導抑制は抗体添加後最大何時間まで検出されるか、濃度依存的に変化するかフェムト秒レーザー照射アッセイによって調べる。 3)抗体を添加した初代培養神経細胞を免疫染色し、神経線維上のCADM1局在を調べる。 4)抗体を添加した培養神経細胞から蛋白を抽出し、CADM1細胞内領域結合パートナー分子(MAGUKファミリー(CASK、MPP1-3)、Protein 4.1、DAL-1、C-terminal Src kinase-binding protein等)の免疫沈降を試みる。あるいはCADM1の下流分子であるPI3 kinase、Src、Aktなどの発現変化について調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画書には初年度に実体顕微鏡の購入を計上していたが、近畿大学医学部が2025年に新設移転するため、購入を先送りにした。学会参加のため旅費を記載していたが、論文のアクセプトが間に合わず参加を見送ったため。 初年度は初代培養神経細胞を用いた実験など順調に進んだ。次年度もin vitro実験を継続して行う。さらに次年度はホルマリンテスト、アトピー性皮膚炎モデルなどin vivo実験を積極的に行う予定である。そのため、動物購入や飼料など動物実験にかかる消耗品費や相当量の組織サンプルがでることが予想され、その組織標本作製に関わる試薬等の消耗品費に使用する予定である。
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