研究課題/領域番号 |
23K06512
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
若林 雄一 千葉県がんセンター(研究所), がんゲノムセンター 実験動物研究部, 部長 (40303119)
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研究分担者 |
奥村 和弘 千葉県がんセンター(研究所), がんゲノムセンター 実験動物研究部, 研究員 (80584680)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | Pak1 / DMBA / TPA / 皮膚扁平上皮がん |
研究実績の概要 |
Pak1はセリン・スレオニンキナーゼファミリーの一員であり、幅広いプロセスに関与するRho GTPasesRAC1およびCDC42の相互作用因子である。従来、上皮系細胞でがん遺伝子的に機能するとされてきたが、意外にも皮膚の樹状細胞のひとつであるランゲルハンス細胞に強く局在し、ノックアウトマウスの皮膚ではランゲルハンス細胞においてT細胞の共刺激分子CD28と結合するCD80/CD86の上昇、即ち、ランゲルハンス細胞の活性化が見られた。また、ノックアウトマウスを用いてDMBA/TPAによる多段階皮膚化学発がん実験を行ったところ、皮膚腫瘍の形成が著明に減少した。さらに、樹状細胞特異的なPak1コンディショナルKO(cKO)マウスを樹立し、同様に皮膚発がん実験を行ったところ、cKOマウスの良性腫瘍パピローマおよび悪性化率の著明な減少と腫瘍内のCD8陽性細胞の集積やインターフェロンγ発現量の有意な上昇が確認された。以上のデータはPak1は腫瘍細胞における増殖促進シグナル伝達だけでなく、樹状細胞を介した抗腫瘍免疫の活性化を誘導するための新規標的因子である可能性を示しているそこで、このPak1欠損による発がん抵抗性を増強する新規因子を遺伝学的スクリーニングにより探索することを目的とし、樹状細胞特異的Pak1KOアレルを持つ戻し交配マウスを作製した。さらに、皮膚がん感受性系統のFVBマウスにDMBA/TPAにより発がん誘導した腫瘍から独自に開発した皮下移植可能な扁平上皮がん由来のがん細胞株をFVBマウスに移植する皮下移植シンジェニックモデルを用いてPAK1阻害剤の腫瘍増殖抑制効果についてテストを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FVB/Nマウスを遺伝的背景として作製したPak1flox/flox(Pak1flox)マウスを、C57BL/6Jマウスを遺伝的背景とするCd11cCreマウスとを交配して得られたF1マウスとFVB/N(Pak1flox/flox)マウスとを交配してN2戻し交配個体を作製し、DMBA/TPAを用いた皮膚発がん実験を行った。既にfloxヘテロ個体、floxホモ個体100頭以上の個体を用いて発がん実験がほぼ完了している。ヘテロ個体では腫瘍を全く発症しない個体から腫瘍を多く発症する個体まで表現型の分布が見られるが、ホモ個体は遺伝的背景にかかわらずすべての個体で腫瘍発生がまったく見られなかった。一方、皮下移植シンジェニックモデルを用いたPAK1阻害剤の腫瘍増殖抑制効果についてのテストではPAK1単独で強い増殖抑制効果が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
戻し交配個体の作製、DMBA/TPAを用いた発がん実験はほぼ完了したので、Pak1ヘテロの戻し交配個体を用いてゲノムワイドの遺伝子型決定に進めたい。皮下移植シンジェニックモデルを用いた移植実験は、樹状細胞でPak1を欠損したマウスに扁平上皮がん細胞を皮下移植して、樹状細胞でのPak1の機能について検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
戻し交配個体マウス数百頭の作製に労力を費やしたが、所属する千葉県がんセンターでは動物施設使用料が無料なため、交配に関して研究費を使用する必要がなかった。他の試薬類も予備実験に用いた手持ちの試薬類で賄うことができたため、次年度使用額が生じた。
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